データ分析を始めたいと思ったとき、「PythonとRのどちらを学べばよいのか」で迷うことがあります。どちらでも集計や統計解析はできますが、使いたい機能、仕事や授業の環境、分析後に作りたいものによって、選びやすい言語は変わります。

まずは、取り組みたい課題に必要な機能があり、学習や相談を進めやすいほうを選びましょう。分析を自動化やアプリ開発へつなげたいならPython、授業や研究でRの教材・パッケージを使うならRが候補になります。

この記事では、PythonとRの違いと選び方を整理し、同じ架空のデータで平均・中央値・分散を求める例を紹介します。言語の使い方に加えて、欠損値や計算条件を確認する習慣も身につけていきましょう。

目次

1.PythonとRは、どちらもデータ分析に使える

Pythonは、データ分析のほか、Web開発、ファイル処理、業務の自動化などにも使われる汎用的なプログラミング言語です。データ分析では、表形式のデータを扱うpandasなどのライブラリを組み合わせて利用します。

Rは、統計計算とグラフィックスのための言語・環境です。基本的な集計や統計解析の機能を備え、必要に応じてパッケージを追加して機能を広げられます。

ただし、「PythonはAI専用」「Rは研究専用」という区分ではありません。どちらを選ぶ場合も、実際に使う手法やパッケージ、共同作業の環境まで確認することが大切です。

比較する観点 Python R
言語の位置づけ 幅広い開発に使える汎用言語 統計計算とグラフィックスを中心とする言語・環境
データの集計・加工 pandasなどのライブラリを利用できる 標準機能や追加パッケージを利用できる
統計解析・可視化 必要なライブラリを組み合わせて行う 標準機能と追加パッケージを組み合わせて行う
選ぶ際の手掛かり 分析と自動化・アプリ開発をつなげたいか 必要な統計手法や、授業・研究の環境がRにそろっているか
共通して必要なこと データの意味、計算条件、分析手法の前提、結果の解釈を確認すること

2.最初の言語は、目的・周囲の環境・必要な機能で選ぶ

言語の人気や機能の多さだけで選ぶと、学び始めてから目的とのずれに気づくことがあります。まずは「どのデータを、何のために分析したいか」を一つ決めてみましょう。

例えば、毎月のCSVを集計して報告する場合と、研究論文で指定された統計モデルを再現する場合では、必要な機能が異なります。分析の入口だけでなく、結果をどう利用するかまで考えると選びやすくなります。

分析を自動化やアプリにつなげたい場合

データの取得、集計、ファイルの出力、アプリへの反映まで一つの言語で進めたいなら、Pythonを候補にできます。すでにPythonを使うシステムがある場合も、既存のコードや知識を活用しやすくなります。

ただし、Pythonを選べば自動的に分析が正しくなるわけではありません。必要なライブラリの使い方と、扱うデータに適した分析方法は別に学ぶ必要があります。

授業や研究で使う手法が決まっている場合

授業の教材、研究室のコード、共同研究者の環境がRにそろっているなら、Rから始めると例を再現しやすくなります。特定の分析手法を使いたい場合は、必要なパッケージの機能や資料も確認しましょう。

反対に、同じ分野でもPythonの環境が整っているなら、それを利用する選択肢があります。「研究だからR」と一律に決めず、自分が参加する環境に合わせて考えてください。

まだ目的が決まっていない場合

最初から両方を同じ深さまで学ぶ必要はありません。利用できる教材や相談相手がいるほうを選び、小さなデータの集計から始める方法があります。

まず一つの言語で、データの確認、集計、結果の説明まで取り組みましょう。その後、別の言語が必要になったときには、分析の考え方を引き継ぎながら学べます。

3.ツールを使う前に、統計の基本とデータの意味を確認する

PythonやRは計算を実行しますが、その計算が目的に合っているかまでは自動で判断してくれません。同じ平均値でも、何を集計したか、どのデータを除いたかによって意味が変わります。

最初は、件数、欠損値、平均値、中央値、ばらつきを確認するところから始めましょう。仮説検定や機械学習は、問いに答えるために必要な場合に検討します。

確認する内容 考えること
一行の意味 一人、一日、一件の注文など、何を一つの記録としているか
集計対象 どの期間・地域・対象者のデータなのか
件数と欠損値 記録の総数と、実際に計算へ使った件数はいくつか
平均値・中央値 極端な値がある場合などに、結果がどう変わるか
分散・標準偏差 ばらつきを何の単位・計算方法で表しているか
関係性 相関や回帰の結果を、原因と結果の証明として扱っていないか

例えば、施策の実施後に売上が増えていても、それだけでは施策の効果とは判断できません。季節、価格、顧客構成などの変化も考える必要があり、検定を行って有意差が出たことだけでも因果関係は証明できません。

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4.同じデータをPythonとRで集計してみる

ここでは、架空の確認テストの得点を使います。5人分の記録がありますが、1人分の得点は欠損しており、値が分からない状態です。

記録得点
A2点
B4点
C欠損
D4点
E6点

今回の例では、欠損の件数を確認したうえで、得点が分かる4人分を集計します。この処理で得られるのは、観測できた4人分の結果であり、5人全員の得点の特徴が分かったわけではありません。

Python:pandasを使って集計する

Pythonを利用できる環境で、pandasをインストールします。既存の開発環境と分けたい場合は、作業用の仮想環境を用意してから実行してください。

python -m pip install pandas

次のコードをPythonの実行環境で動かします。ここでは数値データとして扱う型を指定し、Noneを欠損値として含めています。

import pandas as pd

scores = pd.Series(
    [2, 4, None, 4, 6],
    name="score",
    dtype="float64",
)

# 元のデータを残し、欠損していない値を別に取り出す
valid = scores.dropna()

print("total:", len(scores))
print("missing:", int(scores.isna().sum()))
print("count:", len(valid))
print("mean:", round(valid.mean(), 4))
print("median:", round(valid.median(), 4))
print("variance_n:", round(valid.var(ddof=0), 4))
print("variance_n_minus_1:", round(valid.var(ddof=1), 4))

dropna()で欠損していない値を取り出し、mean()で平均値、median()で中央値を計算しています。分散は、分母の違いを確認するため、二つの設定で計算しています。

R:標準機能で同じ集計を行う

Rを利用できる環境では、次のコードで集計できます。この例には追加パッケージは必要なく、NAで欠損値を表します。

scores <- c(2, 4, NA, 4, 6)

# 元のデータを残し、欠損していない値を別に取り出す
valid <- scores[!is.na(scores)]

result <- c(
  total = length(scores),
  missing = sum(is.na(scores)),
  count = length(valid),
  mean = mean(valid),
  median = median(valid),
  variance_n = mean((valid - mean(valid))^2),
  variance_n_minus_1 = var(valid)
)

print(round(result, 4))

is.na()で欠損している位置を確認し、!is.na()で欠損していない位置を選んでいます。Rのvar()は、通常、データ数から1を引いた値を分母に使います。

計算結果を照合する

表示形式は異なりますが、計算条件をそろえると、次の結果になります。平均や分散を見る前に、元の記録が5件で、計算に使った値は4件であることを確認してください。

出力項目意味結果
total元の記録数5
missing欠損した値の数1
count計算に使った値の数4
mean平均値4点
median中央値4点
variance_n分母をnとした分散2
variance_n_minus_1分母をn−1とした分散約2.6667

5.分散の計算結果が違うときは、分母と欠損値を確認する

同じデータでも、関数の設定によって結果が変わることがあります。特に分散は、分母をデータ数の \(n\) にするか、\(n-1\) にするかを確認する必要があります。

今回の有効なデータは「2、4、4、6」で、平均は4です。平均からの差を二乗して合計すると、8になります。

$$ (2-4)^2+(4-4)^2+(4-4)^2+(6-4)^2=8 $$

この4個のデータ自体のばらつきを、偏差の二乗の平均として表すなら、8を4で割って2となります。一方、分母を \(n-1\) とすると、8を3で割って約2.6667となります。

$$ \frac{8}{4}=2 $$

$$ \frac{8}{4-1}=\frac{8}{3}\approx2.6667 $$

pandasとRの初期設定を確認する

pandasのSeries.var()は、初期設定ではddof=1で、分母が \(n-1\) になります。ddof=0を指定すると、分母は \(n\) になります。

Rのvar()も分母は \(n-1\) です。標本から母集団の分散を推定する際には、独立で同じ分布に従うなどの条件の下で、この計算が不偏推定量になります。ただし、分母を変えるだけで標本の偏りや欠損の問題まで解消するわけではありません。

欠損値を扱う設定も同じとは限らない

pandasのSeries.var()は、初期設定で欠損値を除いて計算します。一方、Rのvar()は、欠損値を含む場合、通常はそのままではNAを返し、除くにはna.rm=TRUEなどの指定が必要です。

今回のコードでは、両方とも先に有効な値を取り出し、計算する対象を明示しました。異なるツールの結果を比べる際は、関数名だけでなく、対象件数、欠損値、分母、丸め方も確認しましょう。

6.実際のデータへ進むときの手順

小さなデータで計算を確かめたら、CSVなどの表形式データへ進みます。最初の課題は、月別の件数を集計する、項目ごとの平均と中央値を比べるなど、結果を説明できる範囲に絞りましょう。

集計だけで問いに答えられるなら、無理に検定や機械学習を追加する必要はありません。分析手法を増やすことより、判断に必要な情報を正しく得ることを優先します。

  1. 問いを決める:何を比較し、何を判断したいのかを一文にする。
  2. データの構造を確認する:一行の意味、列名、単位、期間、件数を調べる。
  3. 品質を確認する:欠損、重複、入力ミス、型の不一致などを確認する。
  4. 集計・可視化する:件数や代表値を求め、目的に合う図で分布や変化を見る。
  5. 必要な分析を追加する:問いとデータの条件に合う場合に、回帰や検定などを使う。
  6. 結果と限界を記録する:分かったこと、分からないこと、次に確かめることを残す。

欠損や外れ値は、理由を確認してから扱う

欠損値は、0と同じ意味ではありません。今回の例でも、欠損を0点に置き換えると平均は3.2点になりますが、得点不明の人を0点だったと仮定した計算になってしまいます。

欠損の除外や平均値による補完にも、結果を変える可能性があります。なぜ値がないのかを確認し、採用した方法と、処理前後の件数を記録してください。

外れ値についても、大きい値や小さい値を自動的に削除しないようにします。入力ミスなら修正し、実際の観測なら、通常と異なる背景がないかを調べましょう。

予測モデルは、作成に使わないデータでも確認する

回帰分析などで予測する場合は、モデルを作ったデータへの当てはまりだけで評価しません。実際の利用場面に合わせてデータを分け、未知のデータでどれくらい外れるかを確認します。

売上などの時系列データでは、予測する時点で入手できない未来の情報を使わないことも重要です。前処理や変数の選び方を含め、評価用データの情報がモデル作成へ混ざらないようにしてください。

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7.学習の進み具合は、時間より「できること」で確認する

データ分析を学ぶために必要な時間は、プログラミングや統計の経験、学習内容、目指す到達点によって変わります。「100時間で実務に使える」など、一つの時間で判断することはできません。

学習計画では、取り組む時間に加えて、何を自分で実行・説明できるようになったかを確認しましょう。コードが動くことと、結果を適切に解釈できることの両方を目標にします。

段階 確認すること
基本操作 コードを実行し、変数やデータの中身を確認できる
集計 件数・欠損値・平均・中央値を求め、対象を説明できる
可視化 目的に合う図を選び、軸・単位・分布を説明できる
小さな分析 一つの問いに対して、結果と限界をまとめられる
再実行・共有 同じデータとコードで結果を再現し、手順を他の人へ説明できる

再現できる形で残すには、元データ、加工手順、使用した言語やパッケージのバージョンを記録します。途中の表だけを手作業で書き換えず、どの処理で結果が変わったかを追えるようにしておきましょう。

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8.PythonとRの学習に関するよくある質問

数学が苦手でも始められますか?

件数、平均、中央値などの集計から始められます。ただし、計算をツールに任せる場合も、その数値が何を表すかは確認しましょう。検定や回帰などへ進むときは、必要な数学と統計の考え方を並行して学びます。

PythonとRの両方を最初から学ぶべきですか?

最初は、目的や利用環境に合う一方で、小さな分析を最後まで進める方法があります。両方を学ぶ必要が出てきたら、同じデータと計算条件で結果を照合すると、言語ごとの違いを確認しやすくなります。

表計算ソフトでは不十分ですか?

小規模な集計や内容確認なら、表計算ソフトで十分な場合もあります。同じ処理を繰り返す、複数のファイルをまとめる、手順をコードで残すといった必要が出てきたら、PythonやRを検討しましょう。

AIにコードを書いてもらってもよいですか?

コードの下書きやエラーの説明に利用できます。ただし、実行できたことだけで正しい分析とは判断せず、小さなデータで計算結果を照合してください。欠損値を勝手に除いていないか、分散の分母や集計対象が意図どおりかも確認します。

9.まず一つの言語で、計算と説明をつなげる

PythonとRのどちらを選ぶ場合も、データの意味を確認し、目的に合う計算を行い、結果と限界を説明する流れは共通です。言語の選択だけで分析の質が決まるわけではありません。

まずはこの記事の小さなデータで、件数、欠損値、平均、分散を確認してみてください。数値を変更したときに結果がどう変わるかを予想し、実行結果と比べることで、コードと統計の両方を学べます。

10.参考資料

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