データ分析で傾向を読み、予測に活かす方法|誤差の確認と改善策の考え方
売上や問い合わせ件数、学習成績などの数値を見て、「この先どうなるだろう」「何を変えればよいだろう」と考える場面があります。データ分析は、現状を整理し、次の行動を考えるための手掛かりになります。
ただし、過去の傾向を見つけること、将来を予測すること、改善策の効果を確かめることは、それぞれ異なります。この記事では、この3つを区別しながら、数値の比較から予測の検証、具体的な対策まで進める方法を紹介します。
目次
1.傾向の把握・予測・効果の検証を分ける
データを見る前に、何を知りたいのかを決めましょう。「先月より問い合わせが増えたか」と「来週は何件になるか」では、必要な集計や確認方法が変わります。
| 目的 | 調べること | 問いの例 |
|---|---|---|
| 傾向の把握 | 観測したデータの特徴や変化 | 問い合わせは、どの曜日に多かったか |
| 予測 | まだ分からない値の見積もり | 来週の問い合わせは何件になりそうか |
| 効果の検証 | 対策によって結果がどう変わったか | 案内ページの改善で問い合わせが減ったか |
例えば、案内ページを更新した後に問い合わせが減っていても、それだけで更新の効果とは断定できません。利用者数の減少や休業日など、別の変化が関係している可能性があるからです。
まず観測できた事実を整理し、そこから考えられる理由を仮説として挙げます。「分かったこと」と「まだ確かめていないこと」を分けて記録すると、次に必要な確認が明確になります。
2.数値を比較する前に、集計条件をそろえる
同じ名前の指標でも、対象や期間が違えば、そのまま比較できない場合があります。件数の増減を見る前に、何を1件として数え、どの期間を集計しているかを確認してください。
| 確認する項目 | 確認の例 |
|---|---|
| 対象 | 全利用者か、新規利用者だけか |
| 期間 | 暦月か、直近28日間か |
| 数え方 | 延べ件数か、重複を除いた人数か |
| 分母 | 営業日数、利用者数、受験者数はいくつか |
| 計測の変更 | 集計方法や記録ツールを途中で変えていないか |
合計が減っても、1日当たりでは増えていることがある
次の表は、問い合わせ件数を比較するための架空の例です。前月は20営業日で100件、当月は15営業日で90件だったとします。
| 期間 | 問い合わせ件数 | 営業日数 | 1営業日当たり |
|---|---|---|---|
| 前月 | 100件 | 20日 | 5件 |
| 当月 | 90件 | 15日 | 6件 |
合計件数は10%減っていますが、1営業日当たりでは20%増えています。月全体の対応量を知りたいのか、営業日ごとの負担を知りたいのかによって、見るべき数値が変わります。
また、「直近28日間」を毎日確認すると、隣り合う集計には27日分の同じデータが含まれます。表示値が数日続けて下がっていても、それを独立した月次データの連続低下として扱わず、日別の内訳も確認しましょう。
3.平均値だけでなく、内訳と散らばりを見る
全体の平均は便利ですが、どのような値が集まっているかまでは表しません。平均値に加えて、中央値、最小値・最大値、曜日や対象別の内訳を見ると、特徴を整理しやすくなります。
例えば、5件の対応時間が「5分、5分、10分、10分、70分」だったとします。この架空のデータでは、平均値は20分、中央値は10分です。平均値だけでは、5件中4件が10分以内だったことを読み取れません。
ただし、70分の記録を都合よく削除してはいけません。入力ミスなのか、実際に難しい問い合わせがあったのかを調べ、修正や除外をする場合は理由を残してください。
時間の変化を見るなら折れ線グラフ、項目ごとの違いなら棒グラフ、2つの数値の関係なら散布図が候補になります。グラフを作ったら、単位や目盛り、集計対象も一緒に確認しましょう。
平均値と中央値の使い分けや、数値の差を評価する際の注意点を確認したい方へ。代表値と仮説検定の役割を具体例で整理しています。
データ分析の代表値と仮説検定|平均・中央値・p値の読み方を具体例で解説 記事を読む →4.回帰分析の説明変数は、そのまま「原因」ではない
回帰分析は、予測したい変数と、説明や予測に使う変数との関係を式で表す方法です。予測したいものを「目的変数」、説明や予測に使うものを「説明変数」と呼びます。
例えば、広告費と売上のデータから回帰式を求める場合、広告費を説明変数、売上を目的変数として扱えます。ただし、回帰式を求めただけで「広告費を増やせば、その分だけ売上が増える」とは言えません。
売れやすい時期に広告費も増やしているなど、別の条件が両方に関係している可能性があります。予測に役立つ関係があることと、操作したときの効果が分かることは別です。
予測値と実測値を区別する
単純な直線による予測式は、「予測値=切片+傾き×説明変数」という形で表せます。実際の観測値は直線の周囲に散らばるため、予測値と一致するとは限りません。
また、過去に観測していない範囲へ式を当てはめることを「外挿」といいます。広告費を少額から大幅に増やす場合など、これまでと条件が変わる場面では、同じ関係が続くか慎重に確認する必要があります。
回帰式の読み方をもう少し詳しく学びたい方へ。予測値と実測値のずれを表す残差や、決定係数の意味を小さなデータで確認できます。
散布図・回帰直線・重回帰分析の違い|残差と決定係数を具体例で理解する 記事を読む →5.予測は、作成に使っていないデータで確かめる
過去のデータにうまく当てはまる式でも、将来の予測が正確とは限りません。モデルを作るデータと、予測の良し悪しを確認するデータを分けることが大切です。
時系列の予測なら、ある時点までの情報で、その後の期間を予測する形で確認します。実際の予測時点では知り得ない情報を使っていないかにも注意してください。
予測のずれを、具体的な数値で見る
次の表は、4日間の問い合わせ件数について、事前の予測と実測値を比較した架空の例です。ここでは、予測と実測の差を絶対値にして集計します。
| 日 | 予測 | 実測 | 差の絶対値 |
|---|---|---|---|
| 1日目 | 10件 | 12件 | 2件 |
| 2日目 | 12件 | 9件 | 3件 |
| 3日目 | 11件 | 11件 | 0件 |
| 4日目 | 13件 | 15件 | 2件 |
差の絶対値の平均は、(2+3+0+2)÷4=1.75件です。この指標を平均絶対誤差(MAE)といい、今回の4日間では、予測が平均で1.75件ずれていたと読めます。
ただし、今後も必ず1.75件以内に収まるという意味ではありません。また、これは計算方法を示す少数の例であり、この結果だけで予測方法の優劣を確定するものでもありません。
新しい方法を評価するときは、「前回と同じ値を予測する」などの単純な方法とも、同じ対象期間で比べてみましょう。複雑な方法を使うこと自体より、必要な精度や運用の負担に見合うかが重要です。
6.予測の幅と、仮定を変えたシナリオを区別する
予測は一つの数値だけでなく、不確実性も含めて読む必要があります。統計モデルに基づく「予測区間」は、将来の観測値が入り得る範囲を、一定の確率水準で示すものです。
一方、「来店者が増えた場合」「通常どおりの場合」「減った場合」のようなシナリオは、前提を変えた試算です。根拠となるモデルや計算なしに、3つのシナリオへ確率を割り当てたり、「95%の確率で収まる」と説明したりしてはいけません。
例えば、問い合わせが多かった場合に応援担当を配置するなど、予測から外れたときの対応も考えておきます。予測の目的は数字を当てることだけでなく、人員や時間の準備に役立てることです。
7.改善策は、原因の仮説と確認方法をセットにする
分析結果から対策を考えるときは、観測した事実、考えられる原因、試すこと、確認する指標を並べます。以下は、操作方法に関する問い合わせが増えた場合の架空の整理例です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 観測した事実 | 操作方法に関する問い合わせが前期間より増えた |
| 原因の仮説 | 利用者が必要な案内ページを見つけにくい |
| 試す対策 | 操作画面から案内ページへのリンクを追加する |
| 主に確認する指標 | 対象機能の利用者100人当たりの問い合わせ件数 |
| 併せて確認すること | 操作の完了率、問い合わせ内容、未解決の困りごと |
| 記録する条件 | 実施日、対象者、比較期間、同時に行った変更 |
問い合わせ件数が減っても、質問する手段が分かりにくくなっただけかもしれません。件数の減少だけを成功とせず、利用者が目的の操作を完了できたかも確認しましょう。
対策の効果を調べるには、可能であれば同じ時期に比較対象を設けるなど、他の変化と区別できる設計を考えます。比較対象を作れない場合は、季節や利用者数、同時に行った施策も記録し、言える範囲を限定してください。
分析した結果を、具体的な改善へつなげたい方へ。比較条件の整理から原因の仮説、対策を実行した後の確認までを解説しています。
データ分析の進め方|数値の比較から原因の仮説・改善策の検証まで 記事を読む →8.よくある質問
データが少ない場合も、予測できますか?
計算自体はできても、予測の安定性や季節的な変化を十分に評価できない場合があります。まず個々の記録と集計条件を確認し、少数の結果から全体へ一般化しないようにしましょう。
必要なデータ量は、変動の大きさ、予測する期間、許容できる誤差などによって異なります。「何件あれば必ず十分」という基準を一律に当てはめることはできません。
プログラミングを使わないと分析できませんか?
小規模なデータなら、表計算ソフトで集計やグラフ作成、予測誤差の確認から始められます。処理の繰り返しや大量のデータを扱う必要が出てきたら、プログラミングによる自動化を検討してください。
予測が外れたら、モデルを作り直すべきですか?
まず入力ミス、計測方法の変更、特別な出来事などを確認します。そのうえで、誤差が継続的に大きくなっているか、特定の条件で外れているかを調べ、データや方法の見直しにつなげましょう。
9.分析を始める前のチェックリスト
- 知りたいことが、現状把握・予測・効果の検証のどれか決まっている。
- 対象、期間、単位、重複の扱いを確認している。
- 合計だけでなく、必要に応じて割合や内訳も見ている。
- 説明変数を、そのまま原因と解釈していない。
- 予測時点で知り得る情報だけを使っている。
- 予測の作成に使っていないデータで誤差を確認している。
- 対策の実施条件と、結果を確認する指標を決めている。
データ分析では、数値を計算した後に、その結果をどう解釈するかが重要です。まず身近な指標を一つ選び、集計条件、観測できた事実、まだ確かめていない仮説を書き分けてみてください。
予測を行う場合は、後から実測値と比較できるように、予測した日と使った情報も残します。その記録を基に、分析と判断の方法を少しずつ改善していきましょう。
参考資料
- 総務省統計局:Data StaRt「キーワード編」
- Hyndman・Athanasopoulos:Forecasting: Principles and Practice「The linear model」
- Hyndman・Athanasopoulos:Forecasting: Principles and Practice「Evaluating point forecast accuracy」
- Hyndman・Athanasopoulos:Forecasting: Principles and Practice「Distributional forecasts and prediction intervals」
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