標準正規分布・t分布・カイ二乗分布・F分布の違い|検定の使い分けと条件を整理
統計の勉強を進めると、標準正規分布、t分布、カイ二乗分布、F分布が登場します。名前や公式を覚えても、どの場面で使うのか分からなくなることがあるのではないでしょうか。
使い分けでは、平均・分散・カテゴリ間の関連のうち何を調べたいかに加え、データの集め方や分析の前提を確認することが大切です。この記事では、4つの分布の役割と、検定を選ぶ際の注意点を整理します。
目次
1.検定では、何の分布を考えているのか
仮説検定では、標本から「検定統計量」という数値を計算します。そして、帰無仮説と分析の前提条件の下で、その数値がどのように分布するかを使って、観測結果を評価します。
例えば、平均値の違いを調べる場合、平均との差をそのまま比べるだけでは不十分です。データの散らばりや標本数を考慮し、比較できる形に変換します。
ここで区別したいのが、元のデータの分布と、検定統計量の分布です。カイ二乗検定を使うからといって、アンケートの回答そのものがカイ二乗分布に従うわけではありません。
| 分布 | 主な特徴 | 代表的な利用場面 |
|---|---|---|
| 標準正規分布 | 平均0・分散1の正規分布 | 母分散が既知の場合の母平均の検定など |
| t分布 | 左右対称で、自由度によって裾の厚さが変わる | 母分散が未知の場合の母平均の検定など |
| カイ二乗分布 | 0以上の値を取り、自由度によって形が変わる | 母分散の検定、度数の適合度・独立性の検定 |
| F分布 | 0以上の値を取り、2つの自由度で形が決まる | 2群の母分散の比較、分散分析など |
この表は、用途の概要です。実際に使う際は、各検定に必要な条件を確認してください。
2.標準正規分布:母平均を評価する基本的な分布
標準正規分布は、平均0、分散1の正規分布です。正規分布に従う変数から母平均を引き、母標準偏差で割ると、標準正規分布に従う変数になります。
ただし、どのようなデータでも標準化すれば正規分布になるわけではありません。中心と尺度を変えることと、分布の形を変えることは別です。
母分散が既知の場合の母平均の検定
正規母集団から独立に無作為抽出したデータについて、母標準偏差が既知である場合を考えます。母平均が基準値と等しいかを調べる検定では、次の統計量を使います。
$$
Z=\frac{\bar{x}-\mu_0}{\sigma/\sqrt{n}}
$$
ここで、標本平均をバー付きのx、帰無仮説で設定した母平均をμ₀、既知の母標準偏差をσ、標本数をnとしています。帰無仮説の下で、この統計量は標準正規分布に従います。
例えば、母標準偏差が既知という条件で、製品の平均重量が基準値と異なるかを調べる場面です。実際には母標準偏差が分からないことも多いため、既知として扱える根拠があるかを確認しましょう。
「30件以上なら使える」とは限らない
標本数が大きい場合、適切な条件の下で正規近似を使えることがあります。しかし、「30件以上」という数だけで、近似の精度が保証されるわけではありません。
元の分布の歪み、極端な値、観測同士の依存関係などによって、必要な条件は変わります。件数だけで検定を決めず、何を近似しているのかを確かめてください。
3.t分布:母分散を標本から推定するときに使う
母分散が分からない場合は、標本から散らばりを推定します。その推定にも不確実性があるため、母標準偏差が既知の場合と同じ扱いにはできません。
正規母集団から独立に無作為抽出した標本で、母平均が基準値と等しいかを検定する場合、次の統計量を使います。
$$
T=\frac{\bar{x}-\mu_0}{s/\sqrt{n}}
$$
ここでsは、偏差平方和を「n−1」で割った不偏分散の平方根です。帰無仮説の下で、この統計量は自由度「n−1」のt分布に従います。
t分布は左右対称で、自由度が小さいほど標準正規分布より裾が厚くなります。自由度が大きくなるにつれて、標準正規分布に近づきます。
t検定は、少数データだけに使う方法ではありません。 標本数が多い場合でも、母分散を標本から推定して平均を評価する場面で使われます。
2群を比べる場合は、対応の有無を確認する
同じ人の研修前後の得点を比較する場合と、別々の人からなる2群を比較する場合では、データの構造が異なります。どちらにも同じ検定を機械的に当てはめることはできません。
| 比較するデータ | 方法の例 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 同じ人の実施前・実施後 | 対応のあるt検定 | ペアごとの差を分析する。ペア間の独立性や差の分布を確認 |
| 独立した2群で等分散を仮定する | 等分散を仮定した2標本t検定 | 各群の分布、観測の独立性、等分散性を確認 |
| 独立した2群で等分散を仮定しない | Welchのt検定 | 各群の分布や観測の独立性を確認。自由度は近似計算 |
Welchのt検定は、2群の母分散が等しいという仮定を必要としません。ただし、独立性や外れ値など、ほかの問題もすべて解決する方法ではありません。
4.カイ二乗分布:分散や度数のずれを評価する
独立した複数の標準正規変数をそれぞれ2乗して足すと、その和はカイ二乗分布に従います。足し合わせた変数の個数が自由度となり、値は0以上です。
カイ二乗分布は、正規母集団の分散を調べる場合や、カテゴリ別の人数・件数を扱う検定で使われます。ただし、それぞれで統計量の作り方と前提条件が異なります。
正規母集団の分散を調べる場合
正規母集団から独立に無作為抽出した標本について、母分散が指定値に等しいかを調べる場合、次の統計量を使います。
$$
Q=\frac{(n-1)s^2}{\sigma_0^2}
$$
s²は不偏分散、σ₀²は帰無仮説で設定した母分散です。帰無仮説の下で、この統計量は自由度「n−1」のカイ二乗分布に従います。
これは、正規性の仮定が重要になる検定です。分散を調べたいという理由だけで、どのようなデータにも使えるわけではありません。
カテゴリ別の人数や件数を調べる場合
適合度検定や独立性の検定では、観測された度数と、帰無仮説の下で期待される度数のずれを集計します。Pearsonのカイ二乗統計量は、次の形で表せます。
$$
Q=\sum\frac{(O-E)^2}{E}
$$
Oは観測度数、Eは期待度数で、和は対象となるすべてのカテゴリやセルについて取ります。独立性の検定なら、クロス集計表にある2つのカテゴリ変数の関連を調べます。
この統計量には、条件の下でカイ二乗分布による近似を使います。正規変数の2乗和という定義と、度数データの検定で使う近似を区別しましょう。
期待度数が小さいセルが多い場合などは、近似の精度に注意が必要です。表の形や調査設計に応じて、Fisherの正確確率検定や再標本化による方法なども検討します。
5.F分布:分散の比や、平均の違いの評価に使う
独立した2つのカイ二乗変数を、それぞれの自由度で割って比を取ると、その比はF分布に従います。分子と分母に対応する2つの自由度で、分布の形が決まります。
代表的な利用場面は、2群の母分散の比較と、複数群の母平均を比較する分散分析です。同じF分布を使っても、何を検定しているかは異なります。
2群の母分散を比較する場合
それぞれ正規分布に従う2つの母集団から、独立に無作為抽出した標本を考えます。母分散が等しいという帰無仮説の下では、不偏分散の比を使って検定できます。
$$
F=\frac{s_1^2}{s_2^2}
$$
分子側の標本数をn₁、分母側をn₂とすると、対応する自由度は「n₁−1」と「n₂−1」です。分母の分散が0の場合は、この比を計算できません。
観測された比が1に近いかどうかだけで、有意差を決めることはできません。自由度、有意水準、片側・両側のどちらを調べるかに応じて評価します。
また、このF検定は、正規性からのずれに影響されやすい方法です。分散の比較では、データの特徴に応じてLevene検定などの別の方法も候補になります。
分散分析では、母平均の違いを調べる
一元配置分散分析では、群間の変動と群内の変動から計算した平均平方の比を、F統計量として使います。名前に「分散」とありますが、ここでの帰無仮説は「各群の母平均がすべて等しい」です。
通常の一元配置分散分析では、観測の独立性、各群の誤差の正規性、等分散性などを仮定します。例えば、異なる3種類の作業方法について、平均所要時間に違いがあるかを調べる場面です。
有意な結果が得られても、「すべての群が互いに異なる」と結論づけることはできません。どの群同士が異なるかを調べるには、多重比較を考慮した追加の分析が必要です。
6.自由度は、分布を決めるために必要
自由度は、データに課される制約や、推定したパラメータの数などに関係します。平均を標本から求めた場合、平均との差の合計は0になるため、n個の偏差をすべて独立に決めることはできません。
これが、不偏分散や1標本t検定で「n−1」という自由度が現れる理由の1つです。ただし、どの検定でも自由度が標本数から1を引いた値になるわけではありません。
| 場面 | 自由度 |
|---|---|
| 1標本t検定 | n−1 |
| 正規母集団の母分散のカイ二乗検定 | n−1 |
| 通常のr行×c列の独立性の検定 | (r−1)×(c−1) |
| 2群の母分散を比べるF検定 | 分子n₁−1、分母n₂−1 |
| k群・合計N件の一元配置分散分析 | 分子k−1、分母N−k |
同じ検定統計量の値でも、自由度が違えばp値は変わります。結果を記録するときは、検定名、統計量、自由度、p値を一緒に残しましょう。
7.p値と、効果の大きさを分けて読む
p値は、帰無仮説と検定の前提条件の下で、観測結果と同程度以上に極端な結果が得られる確率です。帰無仮説が正しい確率や、結果が偶然だった確率ではありません。
また、p値が小さいことだけでは、差の大きさや実務上の価値は分かりません。平均値が何点違うのか、所要時間が何分変わるのかといった効果の大きさや、その推定区間も確認してください。
有意差が認められなかった場合も、両者が同じだと証明されたわけではありません。データ数やばらつきによっては、判断に必要な精度が得られていない可能性があります。
8.検定を選ぶ前に、目的とデータの構造を確認する
最初に考えるべきなのは、どの分布を使いたいかではなく、何を比較したいかです。そのうえで、対象の集め方、対応の有無、独立性、分布の特徴などを確認します。
例えば、同じ人の前後比較を独立した2群として扱ったり、同じ利用者の回答を何度も独立したデータとして数えたりすると、計算ができても想定した検定にはなりません。
4つの分布は、データから得た数値を評価するための道具です。公式と用途だけでなく、どの条件で成り立つか、結果からどこまで言えるかを合わせて理解していきましょう。
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