「起業しても、多くの会社は数年でなくなる」「企業の倒産件数が増えている」。こうした情報を見ると、会社を経営することや、独立することに不安を感じるかもしれません。

ただし、倒産件数、倒産率、起業後の生存率は、それぞれ異なる指標です。数字だけを取り出すと、「ある年に倒産した企業の件数」を「これから起業する人が失敗する確率」と読み違えてしまうことがあります。

この記事では、何を数え、何で割り、どの期間を見ているのかを軸に、企業の倒産や存続に関する数値の読み方を整理します。実例には2025年の通年集計などを使用し、最新月の速報とは分けて扱います。

目次

1.倒産・廃業・解散は、同じ意味ではない

会社や事業が終わる理由は一つではありません。経営が行き詰まる場合もあれば、経営者の引退や事業の整理などによって活動を終える場合もあります。

また、倒産には事業の再建を目指す手続きも含まれるため、「倒産件数に入った企業は、すべて直ちに事業を停止する」とは限りません。統計を読むときは、その資料がどの状態を対象としているかを確認しましょう。

用語読むときのポイント
倒産経営の行き詰まりに関する概念。統計では、対象となる手続きや負債額などに条件がある
破産倒産に関係する法的手続きの一つ。倒産全体と同じ意味ではない
休廃業事業活動の休止・終了を指す。調査上の確認方法や定義を見る必要がある
解散法人の終了に向けた過程などに関わる概念。倒産と一対一に対応するものではない
生存・存続調査上、企業や事業の継続が確認されている状態。黒字や高成長を意味するとは限らない

さらに、見出しに「企業」とあっても、株式会社などの法人だけでなく、個人事業を含む調査があります。会社数、企業数、事業所数も同じではなく、一つの企業が複数の店舗や事業所を持つ場合があります。

2.倒産件数・倒産率・生存率を分ける

倒産件数は、期間内に確認された数

倒産件数は、一定期間に、調査の条件に該当した倒産が何件あったかを示します。件数が増えたことは分かっても、その数字だけでは、対象企業全体に占める割合は分かりません。

例えば、企業数が多い業種では、倒産件数も多くなる可能性があります。業種ごとのリスクを比べたい場合は、件数に加えて、その業種に何社あるのかという分母が必要です。

倒産率は、分母の定義を確認する

倒産率として示される指標は、一般に、期間内の倒産件数を対象企業数で割る形で計算されます。ただし、分母が期首企業数なのか、期間中の平均企業数なのか、特定のデータベース収録企業数なのかは資料によって異なります。

倒産率の基本的な考え方

対象期間の倒産件数 ÷ 対応する対象企業数 × 100

この式に、別の調査から拾った企業数をそのまま入れてよいとは限りません。法人・個人事業の範囲、業種、地域、基準日などが対応している必要があります。

生存率は、ある集団を追跡する指標

創業後5年の生存率は、ある時期に創業した企業群について、5年後にどの程度存続しているかを見る指標です。あらゆる社歴の企業を含む年間の倒産率とは、対象も期間も異なります。

したがって、年間の倒産率と、創業後5年の非生存割合を、そのまま比較することはできません。企業群の選び方や、存続を確認する方法も合わせて読む必要があります。

3.実例:2025年の倒産「1万300件」は何を表す?

東京商工リサーチによると、2025年1~12月の全国企業倒産は、負債総額1,000万円以上の集計で1万300件でした。前年から2.9%増えていますが、この2.9%は倒産率ではなく、倒産件数の前年比増加率です。

同じ集計の負債総額は1兆5,921億9,000万円で、前年比32.0%減でした。件数と負債総額が異なる方向に動いていることからも、一つの数値だけで状況全体を表すことはできません。

2025年の指標数値意味
倒産件数10,300件集計条件に該当する倒産の件数
件数の前年比2.9%増前年の件数に対する増加率
負債総額1兆5,921億9,000万円対象となった倒産企業の負債額の合計
負債総額の前年比32.0%減前年の負債総額に対する減少率

出典:東京商工リサーチ「2025年(令和7年)の全国企業倒産1万300件」。ここで扱っているのは2025年の実績であり、2026年の通年結果や、個別企業の将来を示したものではありません。

調査機関が違えば、集計範囲も確認する

帝国データバンクの倒産集計は、負債額1,000万円以上の法人および個人経営を対象に、法的整理の申請を集計しています。一方、東京商工リサーチでは法的整理に加え、私的整理なども倒産集計の対象になります。

件数が異なっていても、直ちにどちらかが誤りとは言えません。同じ調査機関・同じ定義の系列で変化を追い、別の統計と比較するときに条件の違いを確認しましょう。

4.「5年後の生存率80.7%」には注記がある

2023年版中小企業白書では、日本における創業後5年の企業生存率として80.7%が紹介されています。ただし、これは2026年時点の最新の起業成功確率を示す数値ではありません。

白書は、データベースに収録される企業の特徴や、収録までに時間を要することなどから、実際の生存率よりも高めに算出されている可能性があると注意を添えています。数値と注記は一緒に読む必要があります。

100%から生存率を引いても、倒産率とは限らない

80.7%を100%から引くと19.3%ですが、これを「5年以内に倒産した割合」と呼び替えることはできません。存続しなかった理由や、調査上の扱いを確認する必要があるためです。

自主的な事業終了や組織の変更なども考えられます。また、追跡できなかった企業をどう扱っているかによっても、解釈は変わります。

海外との比較にも条件がある

同白書は、国によって統計やデータの性質が異なるため、単純には比較できないことも示しています。日本の数値が高く見えても、それだけで「日本の起業は他国より安全」とは判断できません。

企業の範囲、創業の定義、追跡期間、休眠や合併の扱いをそろえられるか確認しましょう。「日本では何割、海外では何割」という紹介文だけで結論を出さないことが大切です。

5.休廃業・解散の件数を、倒産件数に読み替えない

帝国データバンクの調査では、2025年の休廃業・解散は6万7,949件でした。この調査は、法的整理による倒産を除き、活動停止や解散を確認した企業を対象とし、個人事業主も含みます。

同調査では、休廃業する直前期の当期純損益が黒字だった割合は49.1%とされています。活動を終えた企業がすべて赤字だったわけではなく、休廃業という結果だけで理由を一つに決められないことが分かります。

ただし、この49.1%は「日本の企業全体の約半数が黒字廃業した」という意味ではありません。休廃業企業について調べた損益の構成比です。

また、同社は、調査時点の状態を確認しており、その後の再開を否定するものではないと説明しています。休廃業後に法的整理へ移行して再集計される場合もあるため、異なる資料の件数を安易に合算しないようにしましょう。

6.架空の例で、分母と確率の違いを確認する

ここからは、計算方法を説明するための架空の数値です。実際の日本企業や、特定の業種の実績ではありません。

同じ条件で集計された二つの企業群について、1年間の倒産件数を比べるとします。件数だけを見る場合と、対象企業数に対する割合を見る場合では、印象が変わります。

架空の企業群対象企業数1年間の倒産件数対象企業数に対する割合
A群10,000社100件1.0%
B群1,000社20件2.0%

A群のほうが倒産件数は多いものの、分母に対する割合はB群のほうが高くなっています。業種や地域の大小が異なる場合、件数だけでは発生の程度を比較しにくいことが分かります。

集団の割合を、そのまま自分の確率にしない

この例のA群に属する企業すべてが、同じ1.0%の確率で倒産するわけではありません。社歴、規模、資金状況、取引先への依存などが異なり、集計値だけでは個別の見通しは分かりません。

さらに、1年間の割合を単純に5倍して「5年間の倒産確率」にすることもできません。毎年の対象企業や経済環境が変わるため、長期の存続を見るには、企業群を追跡したデータなどが必要です。

「倒産企業のうち何割」と「その企業群の何割」は違う

例えば「倒産企業の大半が小規模企業だった」という情報は、倒産企業の内訳です。それだけでは、小規模企業全体の何割が倒産したかは分かりません。

割合を見たら、「何のうちの何割か」と言い直してみましょう。この一手間で、構成比と発生率の取り違えを防ぎやすくなります。

💡 あわせて読みたい関連記事

件数・割合・増加率は、それぞれ見ているものが異なります。比較期間や分母をそろえて、数字の変化を読む方法はこちらで解説しています。

数字の変化を分析する方法|成績・業績の比較と改善に使うデータの読み方 記事を読む →

7.起業を考えるときは、統計を「確認する問い」に変える

倒産に関する統計は、業界の変化や課題を知る材料になります。一方で、「生存率が高いから大丈夫」「倒産件数が増えたから起業すべきではない」と、数字一つで判断するものではありません。

自分の事業について、誰に何を提供するのか、実際に購入する人がいるのか、提供にどの程度の作業や費用がかかるのかを確認します。統計で気になった点を、事業計画の確認事項へ置き換えてみましょう。

  • 需要:関心を示す人だけでなく、実際に利用・購入する人がいるか。
  • 提供体制:約束した品質や納期を、継続して守れるか。
  • 入出金:売上が入る時期と、費用を支払う時期を把握しているか。
  • 依存:特定の顧客や販売経路に売上が偏っていないか。
  • 見直し:何を確認したら、価格・規模・提供方法を変更するか。

会社が存続していることと、経営者が望む収入や働き方を実現できていることも別です。存続だけでなく、利益、負担、顧客への価値など、自分が確認したい目標を分けて考えましょう。

💡 あわせて読みたい関連記事

起業やサービスづくりでは、誰に何を提供し、なぜ選んでもらえるのかも確認したいところです。顧客の希望と提供できる内容から、強みを整理する手順を紹介しています。

USPの作り方|サービスの強みを見つけ、顧客に伝わる差別化を考える手順 記事を読む →

8.倒産率に関するよくある質問

「起業した会社の9割はなくなる」という話は正しいですか?

対象や期間、出典が分からなければ判断できません。「何年以内」「法人だけか」「なくなるとは何を意味するか」を確認してください。

出典が中小企業白書と書かれていても、該当する図表や注記までたどることが大切です。別の数値や、異なる指標が引用されている可能性があります。

倒産件数が多い業界は、必ず危険ですか?

件数だけでは判断できません。企業数が多い業界では、件数も多くなりやすいため、対象企業数や規模、社歴なども見る必要があります。

同じ業界でも事業内容や顧客構成は異なります。業界全体の数値は出発点として使い、個別の事業条件を確認しましょう。

2025年と2025年度の数値は比較できますか?

そのまま同じ期間として扱うことはできません。暦年の2025年は通常1~12月ですが、2025年度は資料によって4月~翌年3月など、集計期間が異なります。

前年同期間との比較なのか、年間と途中経過の比較なのかも確かめます。月次の件数を単純に12倍して、年間の確定値として扱わないようにしましょう。

廃業は、起業の失敗を意味しますか?

必ずしもそうではありません。活動を終えた理由や、その後に事業が引き継がれたかなどは、件数だけでは分かりません。

同様に、会社が残っていることだけで成功とも判断できません。統計上の状態と、個人や事業にとっての成果を分けて考えます。

9.まとめ:割合を見る前に、何を数えたかを確認する

倒産や起業に関する数字を読むときは、最初に指標の名前を確認します。件数、増加率、構成比、生存率を区別するだけでも、見出しから受ける印象は変わります。

  • 倒産・休廃業・解散を同じものとして扱わない。
  • 対象に法人、個人事業、どの規模の企業が含まれるかを見る。
  • 割合の分母と、期間・基準日を確認する。
  • 生存率の注記や、追跡対象の偏りを読む。
  • 集団の統計を、自分の事業の成功確率に置き換えない。

気になる数字を見つけたら、「何のうち、何件なのか」と言い直してみてください。そのうえで元資料を確かめることが、企業や起業について落ち着いて考えるための第一歩になります。

参考資料

掲載した実績値は、それぞれの資料の対象期間に基づきます。集計条件や注記は、リンク先の原資料でも確認してください。

Learning Tools

記事を検索したい方はここから!

辞書から探す

本文中で気になった概念やキーワードを、辞書ページで一覧から確認できます。

辞書を見る