仕事に役立つ本を読んだものの、日々の業務では使えていない。気になる教材を買っても、取り組む時間が取れない。社会人の学び直しでは、学ぶ内容だけでなく、生活の中でどう続けるかも課題になります。

この記事では、日本の学習状況を示す統計の読み方を整理したうえで、読書を仕事や日常の実践につなげる方法を紹介します。周囲との比較だけで目標を決めず、自分が知りたいことや改善したいことから、学習の形を考えていきましょう。

目次

日本の学習状況は、何を測った数字なのかを確認する

「日本人の学習率」という言葉だけでは、学ぶ人の割合なのか、学習時間なのか、学んだ内容を覚えている割合なのかが分かりません。統計を見るときは、対象者と活動の定義、調査期間を確認する必要があります。

総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査結果」では、過去1年間に「学習・自己啓発・訓練」を行った人の割合は、10歳以上人口の39.6%でした。対象期間は2020年10月20日から2021年10月19日までで、社会人だけを集計した数字ではありません。

この項目は自由時間の活動を対象とし、社会人の職場研修や、児童・生徒・学生が授業・予習・復習として行う学業は除かれています。したがって、該当しなかった人を「一切学んでいない人」と解釈することもできません。

確認する項目この統計での内容
調査年2021年
対象者10歳以上の人
指標過去1年間に該当する活動を行った人の割合
結果39.6%
読み取れないこと毎日の学習習慣、個人の能力、仕事の成果

出典:総務省統計局「令和3年社会生活基本調査結果」

この数字だけで、日本と他国の学習状況を比較することもできません。国際比較をする場合は、年齢範囲や学習に含める活動、調査方法などの条件がそろっているかを確かめましょう。

「平均勉強時間6分」という情報の読み方

平均学習時間についても、誰を含めて計算した平均なのかを確認してください。社会生活基本調査では、該当する行動をしなかった人も含める「総平均」と、行った人だけで計算する「行動者平均」を区別しています。

例えば、100人のうち10人が60分学習し、90人が学習しなかったと仮定すると、全員の平均は6分です。一方、学習した10人だけの平均は60分になります。これは平均の仕組みを説明する例であり、実際の調査結果ではありません。

そのため、「平均6分」という数字を見ても、全員が毎日6分だけ学んでいるとは限りません。調査年や対象者、平日か週全体かといった条件を省いて、「社会人の勉強時間」と一括りにしないことが大切です。

また、平均時間より長く学んだからといって、能力や仕事の成果で上位何%に入るかは分かりません。自分の学習を振り返るときは、時間と合わせて、何を理解し、何ができるようになったかを確認しましょう。

読書の目的に合わせて、学習後の行動を選ぶ

読書には、知識を得る、考え方を広げる、物語を楽しむなど、さまざまな目的があります。すべての読書を仕事の成果や行動の変化に結び付ける必要はありません。

そのうえで、仕事や資格学習に活用したい本を読むときは、読む前に「何を知りたいか」を1つ決めておく方法があります。読んだ後に、その問いへの答えが得られたかを振り返ってみましょう。

読む目的読んだ後に取り組む例
仕事の進め方を改善したい紹介された方法を、1つの業務で試す
技術を身につけたい小さなサンプルを作り、動きを確認する
資格試験の内容を理解したい関連する問題を解き、解説と比較する
考え方を広げたい賛成する点・疑問に思う点を書き出す
作品を楽しみたい印象に残った場面や感想を自由に残す

実践する内容が思いつかない場合は、無理に行動目標を作らなくても構いません。「さらに調べたいことが分かった」「別の考え方を知った」といった変化も、読書の記録に残せます。

「読書10%・教える90%」を定着率の根拠にしない

学習方法を説明する図として、読書は10%、他人に教えると90%覚えられる、といった「ラーニングピラミッド」が紹介されることがあります。しかし、この固定的な数値を、学習効果の確かな比較として使うことには問題があります。

LalleyとMillerによる2007年の検討では、ピラミッドを裏付ける信頼できる研究は確認されず、方法の効果は学習条件に応じて考える必要があると指摘されています。「読書より教える方が9倍定着する」といった計算の根拠にはできません。

本を読む、説明を聞く、話し合う、試すといった活動は、学ぶ目的に合わせて組み合わせましょう。読書を低く評価するのではなく、読んで得た理解を、どのように確かめたり使ったりするかを考えてください。

読んだ知識を活用する4つの手順

1.今の疑問を、具体的な問いにする

「仕事力を高めたい」だけでは、何を読むかを選びにくいかもしれません。「会議後に担当者が曖昧になるのを防ぎたい」「表計算の集計作業を減らしたい」など、現在困っている場面を書き出してみましょう。

問いが決まったら、目次や索引を見て関係する章を探します。前提知識が必要な内容は順番に読み、すでに知っている部分は確認しながら進めるなど、本の構成に合わせて読み方を調整してください。

2.本の主張と、自分の考えを分けて残す

読書メモには、本に書かれていた内容と、自分が考えたことを区別して残しましょう。後で見返したときに、著者の説明と自分の解釈を混同しにくくなります。

例えば、「著者は何を勧めているか」「どのような条件で使う方法か」「自分の状況にも当てはまりそうか」の3点を整理します。参照した章やページも添えると、確認し直す際に便利です。

3.小さく試せる行動を1つ選ぶ

取り入れたい方法が見つかったら、まず1つの場面で試してみましょう。読んだ方法を一度にすべて導入するより、何を変えたかを把握しやすくなります。

例えば会議の本なら、次の打ち合わせで「終了前に担当者と期限を確認する」ことを試します。プログラミングの本なら、サンプルを動かした後に入力を変え、結果がどう変化するかを確認する課題にできます。

4.結果を見て、続けるか調整するかを決める

実践した後は、何が変わったかを記録してください。うまくいった点だけでなく、準備に時間がかかった、相手に伝わりにくかった、といった点も残しておきます。

一度の実践で、本の方法が正しいかどうかまで結論を出す必要はありません。自分の状況に合う形へ調整する、追加の情報を調べる、別の方法を試すなど、次の行動を考える材料にしましょう。

忙しいときは、読書と実践を分けてもよい

読書と実践を、毎回同じ時間帯に行う必要はありません。移動中に関係する章を読み、夜に要点をメモし、次の仕事で試すという形でも予定を組めます。

例えば、平日は1回10分程度の読書と短いメモにし、週末にまとまった作業を行う方法があります。時間はあくまで例なので、生活に合う長さに調整してください。

予定どおりに読めない日があったら、次に読むページや考えたい問いだけを残しておきましょう。再開時に迷わないようにしておくと、毎回計画を立て直す負担を減らせます。

そのまま使える読書メモ

最初から詳しい書評を作る必要はありません。次の項目のうち、今回の目的に必要なものだけを短く記録してみてください。

  • 書名・著者:
  • 読んだ章・ページ:
  • 今回知りたかったこと:
  • 本に書かれていた要点:
  • 自分の考え・疑問:
  • 試してみること:
  • 試す場面・日付:
  • 実践して分かったこと:
  • 次に調べること:

例えば、「会議の終了時に担当者と期限を確認する」と決めたなら、実施後に確認できた項目と、残った曖昧さを記録します。「役立った」という感想に加えて、実際に何が変わったかを残すと、次の改善につながります。

読んだ冊数や学習時間は、取り組みを振り返るための記録になります。そこに、自分の疑問、試した内容、分かったことを加えながら、今の生活や仕事に合った学び方を作っていきましょう。

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