本や講座で学んだ内容は説明できても、仕事や勉強で使おうとすると手が止まることがあります。知識を覚えた後には、目の前の課題で何を使い、どのように進めるかを考える練習も必要です。

学んだことを実践に活かすには、使う場面を決める、必要な知識と条件を確認する、小さく試す、結果から次の学習を決めるという手順で整理できます。最初から大きな成果を目指すより、何ができればよいかを具体的にして取り組みましょう。

この記事では、知識を別の課題に使う「学習の転移」の考え方と、実践・振り返りの進め方を紹介します。プログラミング学習や職場での取り組みを例に、行動へ移すための確認事項をまとめます。

目次

1.学習の転移とは、学んだことを別の場面で使うこと

学習の転移とは、ある場面で学んだ知識や技能を、別の問題や状況で使うことです。例えば、授業で習った割合の考え方を買い物の割引計算に使うことや、練習したプログラムを別のデータの集計に応用することが挙げられます。

教材の例を再現できることと、新しい課題で使い方を選べることは、分けて確かめましょう。うまく使えないときは、知識が不足しているのか、課題との結びつきが分からないのか、実行する環境が整っていないのかを確認します。

手順だけでなく、使える条件も理解する

米国のNational Research Councilによる『How People Learn』第3章「Learning and Transfer」では、学習の転移について研究が整理されています。そこでは、元の内容を十分に学ぶことや、手順の暗記にとどまらず理解することの重要性が説明されています。

また、一つの場面だけで学ぶ場合と、複数の場面で学ぶ場合では、知識の応用のしやすさが異なるとされています。ただし、例を増やせば、どんな課題にも自動的に対応できるという意味ではありません。

学習するときは、「どうするか」に加えて、「なぜこの方法を使うのか」「どの条件では使えないのか」も確かめてください。別の例と比較し、共通する考え方と変更が必要な部分を整理してみましょう。

2.実践する前に、できるようになりたいことを具体化する

「仕事に活かす」「応用力を高める」という目標だけでは、何から始めるか決めにくくなります。どの場面で、何を、どこまでできるようになりたいかを書いてみましょう。

例えば、「プログラミングを使えるようになる」なら、最初の課題を「練習用の得点一覧から、条件に合う件数を数える」と具体化できます。確認する対象が明確になれば、必要な知識や教材も選べます。

漠然とした目標 具体化した課題の例 確認する方法
プログラミングを活用する 練習用の得点一覧から、指定した基準以上の件数を数える 手で数えた結果と一致するか確かめる
会議の進め方を改善する 会議の最後に、決定事項の担当者と期限を確認する 未確定の担当や期限が残っていないか確認する
数学の応用問題に対応する 設定が変わった問題で、使う公式とその理由を説明する 条件の読み取りと立式を解説に照らして確認する
説明を分かりやすくする 初めて操作する人に、手順と注意点を説明する 相手がどの部分で迷ったかを確認する

目標には、自分で確かめられる行動や結果を含めてください。「評価される」「売上が上がる」といった最終的な成果だけでなく、その前に自分が何を実行するかを決めます。

3.学ぶ・考える・試す・振り返る、をつなげる

ここでは、実践の計画を立てるために、取り組みを四つに分けます。これは作業を整理するための手順例であり、必ずこの順番で進めなければならないというものではありません。

学ぶ:課題に必要な基礎を確認する

まず、取り組む課題に必要な用語、仕組み、基本操作を学びます。説明を読んでも分からない部分があれば、先に例題や短い練習へ戻って確認しましょう。

資料を選ぶ際は、自分の状況に合っているかも確かめます。対象者、前提知識、使用する道具や環境が違う場合は、そのまま手順を当てはめられるとは限りません。

考える:使う知識と、確かめたいことを決める

課題のどの部分に、学んだ考え方を使うかを整理します。「この条件を調べるために、この処理が必要」と説明できる形にしてみてください。

あわせて、予想する結果を先に書きます。結果が出てから都合のよい説明を付けることを避け、予想と実際の違いを振り返る材料にします。

試す:確認できる範囲で実行する

最初は、結果を確認できる小さな課題から試します。プログラムなら少量の練習用データ、説明の練習なら短い操作手順など、対象を絞りましょう。

「理解が8割なら始める」のような割合だけでは、実行してよいか判断できません。何が分かっていて、何が未確認か、失敗した場合にどこまで影響するかを具体的に確認してください。

振り返る:結果を次の学習につなげる

実行後は、予想した結果と実際の結果を比較します。うまくいかなかった場合は、知識の不足、手順の誤り、入力条件の違いなど、確かめる候補を挙げましょう。

原因がまだ分からないときは、結論を急がず、次に何を調べれば区別できるかを考えます。その確認結果を基に、教材へ戻る、条件を変えて試す、他者に相談するといった次の行動を決めてください。

4.実践例:条件分岐の知識を、得点の集計に使う

プログラミングで条件分岐を学び、一つの得点が基準以上かどうかを判定できるようになった場面を考えます。次の課題を「複数の得点から、60点以上の件数を数える」としてみましょう。

この課題では、一つの値を判定する知識に加えて、複数の値を順番に調べる処理と、件数を記録する処理が必要になります。これまで学んだことと、新しく確認することを分けます。

整理する内容 具体例
すでに学んだこと 一つの得点について、60点以上かどうかを判定する
追加で必要なこと 一覧を順番に調べ、条件に合うたびに件数を増やす
練習用データ 45、60、72、59、90
予想する結果 60点以上は、60・72・90の3件
確認する点 60点ちょうどを含め、59点を含めていないか

結果が3件になったら、基準を70点へ変更し、今度は2件になるかを確認します。さらに、すべて基準未満の場合や、一覧が空の場合など、条件を変えて動作を確かめてください。

一つの例で正しい結果が出たことだけでは、すべての場合に正しく動くとは判断できません。結果が合った理由を説明し、入力や条件を変えても対応できるかを確認するところまで進めましょう。

プログラミングの基礎や、見本を動かしてから変更する学習手順は、次の記事で整理しています。

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5.振り返りでは、観察した事実と原因の予想を分ける

振り返りは、「成功した」「失敗した」という感想だけで終えず、実際に何が起こったかを書きます。そのうえで、原因として考えられることと、次に確かめることを分けてください。

例えば、会議の進め方を変えた後に会議時間が短くなっても、それだけで方法の効果とは判断できません。議題の数や難しさ、参加者など、前回と異なる条件も確認しましょう。

次の表は、振り返り方を示す架空の記入例です。実際の業務成果を報告したものではありません。

項目 記入例
行ったこと 会議前に、決めたいことと検討資料を参加者へ送った。
観察した事実 予定した議題のうち、一つは追加資料が必要となり、判断を持ち越した。
原因の予想 選択肢を比較するための情報が不足していた可能性がある。
次に確かめること 参加者に、判断するために不足していた情報を尋ねる。
次回の変更 確認できた不足情報を、事前資料の項目へ追加する。

他者に意見を求めるときも、「どうでしたか」だけでなく、「どの情報が足りませんでしたか」「どの手順で迷いましたか」と具体的に尋ねてみましょう。受け取った意見は、実際の記録や目的と照らし合わせて検討します。

6.実践が進まないときは、止まっている場所を見つける

行動できない理由を、意欲や性格だけで説明する必要はありません。課題が大きすぎる、前提知識が足りない、使う道具がないなど、取り組み方を変えることで対応できる部分がないか確認しましょう。

現在の状態 次に行うこと
説明を読んでも意味が分からない 用語や前提となる内容を確認し、基本の例題に戻る
見本どおりにはできるが、変更できない 条件を一つだけ変え、どこに影響するか予想して試す
何から始めればよいか分からない 完成形を小さな作業に分け、最初の一つを選ぶ
正しくできたか判断できない 期待する結果や確認方法を、実行前に決める
職場で試す機会や権限がない 練習課題や提案書を用意し、実施できる範囲を相談する

学習中に見つかった疑問も、すべてをその場で調べ切る必要はありません。今の課題を進めるために必要な疑問を先に確認し、関連する別の話題はメモに残しておく方法があります。

また、読む時間と実践する時間を固定の割合にそろえるより、その時点で不足している作業に時間を使いましょう。基礎を学び直すことも、実践を進めるための取り組みです。

7.学んだことを実践に活かす際のよくある質問

完全に理解してから始めるべきですか?

すべてを学び終えるまで待つ必要はありませんが、取り組む課題に必要な前提と、結果の確認方法は押さえておきましょう。未確認の部分がある場合は、練習用の課題や元に戻せる環境で試す方法があります。

実践する機会がない場合は、どうすればよいですか?

架空の事例を検討する、練習用データを使う、短い説明を作るなど、必要な作業の一部分を練習できます。ただし、練習でできたことと、実際の環境で確認できたことは区別してください。

一度うまくできたら、身についたと考えてよいですか?

まずは、その条件でできたと捉えましょう。時間を空けたり、課題の条件を変えたりして再度取り組むと、どこまで対応できるかを確認できます。

8.次の学習では、試す課題と確認方法を一つ決める

学んだ知識を使えるか確かめるには、具体的な課題に取り組み、その結果を振り返る機会を作ります。何を学んだかに加えて、どの条件で使えたか、どこに追加の学習が必要かを記録しましょう。

まずは、最近学んだ内容から一つ選び、小さな課題と期待する結果を書いてみてください。実行後に予想との違いを確認し、次に調べることや試すことへつなげていきましょう。

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