会社を辞めて独立するときは、事業の準備に加えて、税金や社会保険の手続きも必要になります。個人事業として始めるか、会社を設立するかによって、提出する書類や費用は異なります。

この記事では、独立前に整理したい事業計画、主な届出、設立費用、退職後の手続きを紹介します。制度の説明は2026年9月時点の公表情報に基づきます。実際の手続きでは、開業日や事業内容に応じた最新の条件を各窓口で確認してください。

目次

1.最初に、誰に何を提供するかを決める

独立の準備では、会社名やホームページより先に、誰のどのような困りごとを解決するかを整理します。提供する商品・サービス、価格、販売方法、代金を受け取る時期まで具体化しましょう。

例えば、Webサイト制作なら、制作料金だけでなく、修正対応の範囲や保守費用、着手金の有無も決める必要があります。同じ売上額でも、作業時間や入金時期によって、手元に残るお金は変わります。

次の項目を書き出すと、事業の見通しを確認しやすくなります。

項目整理する内容
顧客誰に利用してもらうか
提供内容どのような課題を解決するか
価格何に対して、いくら受け取るか
費用提供するために何が必要か
集客顧客にどう知ってもらうか
入金契約・納品から何日後に受け取るか

最初から予測を当てる必要はありません。ただし、見込みと実績を区別し、問い合わせ数や受注数を確認しながら計画を修正できるようにしておきましょう。

2.個人事業と会社設立を比較する

個人事業は、自分自身が事業の主体となる形です。株式会社や合同会社を設立する場合は、個人とは別の法人をつくり、その法人が契約や事業活動の主体になります。

どちらを選ぶかは、設立費用だけでは決められません。取引先の条件、共同経営の有無、事務負担、税金や社会保険を含めた継続費用も比較しましょう。

比較項目個人事業株式会社・合同会社
開始時の手続き開業届など定款作成・設立登記・各種届出など
開始時の費用開業届の提出自体は無料登録免許税などが必要
お金の管理生活用と事業用を分けて管理する法人のお金と個人のお金を区別する
検討する条件小規模で始めたいか、取引条件に合うか法人契約が必要か、出資や経営体制をどうするか

法人であることを取引条件とする相手もいますが、会社を設立すれば受注や融資が保証されるわけではありません。実績や事業計画、契約内容なども判断材料になります。

税負担についても、売上額だけで有利・不利を決めることはできません。利益、役員報酬、家族の状況などで変わるため、法人化を検討するときは税理士に具体的な試算を相談するとよいでしょう。

3.個人事業の開業届と青色申告は、期限を分けて確認する

開業届の提出期限

2026年1月1日以後に開業する場合、開業届の提出期限は、開業した年分の所得税の確定申告期限までです。以前の「開業から1か月以内」という説明を、そのまま当てはめないようにしてください。

提出先は、納税地を所轄する税務署です。e-Taxのほか、書面を持参・郵送する方法もあります。

青色申告の申請期限

青色申告を希望する場合は、開業届とは別に「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。新規開業の年から青色申告を行う場合の期限は、次のとおりです。

開業日青色申告承認申請書の提出期限
1月1日~1月15日その年の3月15日まで
1月16日以後開業日から2か月以内

期限が土日・祝日等に当たる場合は、国税庁の案内に従って翌開庁日を確認します。相続で事業を引き継ぐ場合などは別の扱いがあるため、上の表とは分けて確認してください。

開業届の期限に間に合っていても、その年の青色申告の申請期限には間に合わないことがあります。 開業時に両方の書類を確認しておくと、提出漏れを防ぎやすくなります。

また、開業届を提出するだけで、自動的に青色申告になるわけではありません。承認申請と、適用する制度に応じた記帳・申告の要件を確認しましょう。

事業内容に応じて必要になる手続き

税務署への届出以外に、都道府県への事業開始の申告や、業種に応じた許認可が必要になる場合があります。従業員を雇う場合は、給与・源泉徴収や労働保険などの手続きも確認します。

インボイス登録も、開業届とは別の手続きです。登録を受けている間は消費税の免税事業者にはなれないため、取引先の要望と申告・納税への影響を合わせて検討してください。

4.会社設立では、登記後の届出まで準備する

株式会社や合同会社を設立する場合は、会社名、本店所在地、事業目的、出資額、経営体制などを決めます。そのうえで定款を作成し、出資の履行や設立登記を進めます。

株式会社では定款の認証が必要ですが、合同会社では公証人による定款認証は不要です。会社の種類によって必要書類が異なるため、法務省の設立手続きの案内を確認しましょう。

設立登記が終わった後も、税務署などへの届出が残っています。代表的な国税の手続きには、次のようなものがあります。

書類主な提出期限
法人設立届出書設立の日以後2か月以内
設立第1期から青色申告を行うための承認申請書設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了日の、いずれか早い日の前日まで

個人事業の青色申告とは期限の決まり方が異なります。都道府県・市区町村への届出も含め、提出先ごとに管理してください。

社会保険については、代表者だけの法人でも加入対象になる場合があります。役員報酬や勤務の実態を含めて年金事務所に確認し、会社が負担する保険料も資金計画に入れておきましょう。

5.設立費用と、事業を続けるためのお金を分ける

会社設立にかかる主な法定費用

通常の設立登記における登録免許税は、次のように計算します。軽減措置が適用される場合は異なるため、利用できる支援制度も確認してください。

会社の種類登録免許税
株式会社資本金の額の0.7%。計算額が15万円未満の場合は15万円
合同会社資本金の額の0.7%。計算額が6万円未満の場合は6万円

これは設立費用の総額ではありません。株式会社では定款認証の手数料が加わり、書類の取得費用や、専門家に依頼する場合の報酬なども別にかかります。

株式会社の定款認証手数料は、一律5万円ではありません。資本金の額等に応じ、100万円未満は原則3万円、100万円以上300万円未満は4万円、それ以外は5万円です。

100万円未満で、発起人全員が自然人かつ3人以下、発起設立、取締役会非設置という条件をすべて満たす場合は、1万5,000円になります。また、株式会社の紙の定款には原則4万円の印紙税がかかりますが、電子定款では不要です。

開業後の支出も見積もる

必要資金を考えるときは、手続き費用に加えて、設備費、毎月の事業費、生活費、税金・社会保険料を整理します。資本金は会社の事業に使う資金であり、支払ってなくなる手数料とは性質が異なります。

「半年分あれば必ず安心」といった共通の基準はありません。毎月の支出と入金予定を並べ、受注が遅れた場合や、入金まで時間がかかった場合も計算しておきましょう。

売上が発生する日と、口座に入金される日は同じとは限りません。利益の見込みだけでなく、支払日に必要な現金が残っているかを確認することが大切です。

6.退職後の健康保険と年金を確認する

会社を退職して個人事業を始める場合は、健康保険の切り替えを検討します。主な選択肢には、国民健康保険、退職前の健康保険の任意継続、条件を満たす場合の家族の健康保険の被扶養者があります。

どれを利用できるか、保険料がいくらになるかは、加入歴や所得、家族の状況などで変わります。退職前に現在の保険者と市区町村へ確認しておくと、比較しやすくなります。

協会けんぽの任意継続では、退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることなどが条件です。原則として退職日の翌日から20日以内の申請が必要なので、開業届とは別に期限を管理してください。

年金も別途確認が必要です。日本国内に住む20歳以上60歳未満で、退職後に厚生年金へ加入せず、被扶養配偶者として第3号被保険者にもならない場合は、原則として国民年金第1号被保険者への切り替えを行います。

7.資金調達は、制度名と利用条件を確かめる

創業時の資金調達先には、日本政策金融公庫や金融機関などがあります。日本政策金融公庫では、現在「新規開業・スタートアップ支援資金」が案内されています。

対象は、新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方などです。利用には審査があるため、制度があることと、自分が希望額を借りられることは区別しましょう。

補助金・助成金を検討する場合も、対象経費、申請期限、交付条件、入金時期を募集要領で確認します。受給が決まっていないお金を、確実な開業資金として計算しないことが大切です。

また、独立前だからという理由だけで、ローンやクレジットカードを増やす必要はありません。事業に必要な支出と返済できる金額を整理し、資金調達の目的を明確にしてください。

8.独立準備は、期限と担当窓口を一覧にする

準備を進める際は、必要なことを書き出すだけでなく、期限と確認先も添えておきましょう。開業日、退職日、会社設立日は別の日になる場合があるため、それぞれを基準とする手続きを分けて管理します。

  • 提供する商品・サービスと価格を決める
  • 個人事業か法人かを検討する
  • 必要な許認可と取得時期を確認する
  • 開業届と青色申告の期限を確認する
  • 法人の場合は、登記後の届出も整理する
  • 健康保険・年金の切り替えを確認する
  • 初期費用、毎月の支出、入金予定を並べる
  • 契約書、請求書、帳簿などの管理方法を決める

勤務を続けながら準備する場合は、就業規則や副業に関する手続きも確認してください。会社の情報や顧客資料を持ち出さず、自分の事業として使える実績・設備・資料を整理します。

独立の準備では、事業を始める手続きと、続けられる収支の両方を確認する必要があります。まずは開業予定日を置き、期限のある手続きと、毎月必要なお金を一つの表にまとめてみましょう。

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