AIが文章やコードを生成するだけでなく、複数の作業を進めるようになったとき、企業の仕事や社会の仕組みはどう変わるのでしょうか。こうした長期的な変化を考える際の一つの材料が、孫正義氏の示した「ASIエコノミー」という未来像です。

この記事で扱うASIエコノミーとは、人間の知的能力を広く上回ると想定されるASIが、経済活動を大きく担うという構想です。2040年の市場規模やAIエージェント数などの数値は、確定した将来ではなく、講演で示された予測として読む必要があります。

本記事では、講演の主要な数値と、その読み取りで注意したい点を整理します。そのうえで、企業や個人が現在のAI活用を検討するための、業務の選び方や効果の確かめ方を紹介します。

目次

1.ASIエコノミーとは、どのような未来像なのか

ASIは、Artificial Superintelligenceの略で、日本語では「人工超知能」「超人工知能」などと呼ばれます。IBMの解説では、人間の知能を超える知的能力を持つ、仮説上のAIシステムとして説明されています。

文章生成や計算など、特定の課題で優れた結果を出すことと、幅広い領域で人間の知的能力を上回ることは区別しましょう。ある試験や業務で高い成績を示しただけで、ASIが実現したと判断できるわけではありません。

ASI・AIエージェント・ヒューマノイドの違い

未来のAIを扱う記事では、知能の水準、ソフトウェアの動作、ロボットの形が混同されることがあります。この記事では、次のように整理します。

用語 この記事での意味 区別したい点
ASI 人間の知的能力を広く上回ると想定されるAI 将来の知能の水準に関する概念
AIエージェント 目的に応じて、情報の取得やツールの利用などを組み合わせて処理を進めるシステム AIエージェントであることは、ASIであることを意味しない
ヒューマノイド 人型の身体を持つロボット 身体の形と、知能や作業能力の高さは別の観点

また、AIが別のプログラムを生成することと、自分の能力を際限なく向上させることも同じではありません。何を作成でき、どこまで実行できるかは、利用するモデル、ツール、権限、実行環境によって変わります。

2.孫正義氏が示した2040年の予測を整理する

2026年7月14日に開催されたSoftBank World 2026では、孫正義氏が2040年のASIエコノミーについて講演しました。以下は、ソフトバンクの公式講演レポートに掲載された主要な見通しです。

項目 講演で示された2040年の見通し
AIが担う経済規模 世界GDPの約20%、約7,000兆円
AIエージェント 100兆個規模
ヒューマノイド 10億台規模
AIデータセンターの電力規模 3TW(テラワット)
AIインフラへの投資 年間5兆ドル

これらは、現在確認された市場規模や稼働台数ではありません。また、表に並んでいるからといって、すべてが同じ確度で実現するとは限りません。技術の進歩、導入費用、利用者の需要、設備整備などの条件を分けて考えましょう。

GDP・企業の売上・利益・時価総額を混同しない

GDPは、一定期間に生み出された付加価値を捉える指標です。企業の売上高をそのまま合計したものではないため、GDPに関する予測を「AI企業の売上予測」と言い換えると、意味が変わってしまいます。

利益や株式時価総額も、それぞれ別の指標です。大きな経済規模が予測されていても、個別企業の売上や利益が同じ割合で増えることや、特定の事業が成功することまでは示していません。

台数や個数だけでは、実際の働きは分からない

AIエージェントは、何を一つと数えるかによって個数が変わります。短時間だけ起動する処理と、継続して複数の業務を担当するシステムを同じように数えても、実際の働きを比較することはできません。

ロボットも、稼働時間、作業速度、扱える対象、故障時の対応などによって能力が変わります。台数をそのまま人間の労働人口へ換算するのではなく、対象となる作業と前提条件を確認する必要があります。

3.AIインフラの予測では、単位と対象を確認する

AIの普及を考える際は、モデルの性能だけでなく、計算設備や電力の供給も確認する必要があります。ただし、インフラに関する数値は、単位や対象期間が違うと、そのまま比較できません。

TWは電力、TWhは電力量を表す

TWは、電力の大きさを表す単位です。一方、TWhは、ある期間に使用した電気の量を表します。例えば、1TWを1時間使用すると、電力量は1TWhになります。

したがって、講演で示された3TWを、そのまま「年間3TWh」と書くことはできません。年間の電力量を求めるには、平均してどれだけの電力を、何時間使うかという条件が必要です。

異なる機関の予測は、対象年と範囲をそろえて読む

IEAの2025年の報告書「Energy and AI」は、世界のデータセンターの電力消費について、2024年を約415TWhと推計し、2030年には約945TWhに増えると見込んでいます。これはAI専用設備だけでなく、データセンター全体を対象とした数値です。

孫氏の2040年の見通しとは、対象年や単位、対象範囲が異なります。数字の大小だけで比較せず、何を数え、どのような普及や効率改善を想定しているかを確認しましょう。

同報告書は、AIの普及速度や設備の効率、電力供給の制約などによって見通しが変わることも扱っています。特定の発電技術だけですべて解決すると決めず、電源、送電網、設備の立地、供給時期を合わせて考える必要があります。

4.将来予測を、現在のAI導入判断へつなげる

ここからは、講演内容の紹介を離れ、企業がAI活用を検討するための実践例を整理します。2040年の予測をそのまま自社の計画に当てはめるより、現在の業務で確かめられることから始めましょう。

まず一つの作業と、合格基準を決める

「社内のすべてをAI化する」という目標だけでは、何を改善できたかが分かりません。問い合わせの分類、議事録の下書き、資料からの項目抽出など、入力と出力を確認できる作業を一つ選びます。

そのうえで、正確さ、処理時間、修正の手間など、何を満たせば使えるかを決めましょう。業務への影響が大きい処理ほど、誤った場合の対応も先に整理します。

試す作業 品質の確認例 負担の確認例
問い合わせの分類 分類の正しさ、判断できない場合の扱い 誤分類を直す時間
議事録の下書き 決定事項の抜け、発言者や期限の取り違え 録音の準備、内容確認、修正にかかる時間
資料からの項目抽出 抽出漏れ、数値や単位の誤り 元資料との照合、再実行の手間
コードの作成補助 仕様との一致、想定外の入力への対応 レビュー、テスト、保守にかかる時間

生成時間だけでなく、確認と修正も測る

例えば、文章の下書きが短時間でできても、確認や修正に長くかかれば、作業全体の短縮は小さくなります。AIを使う前後で、準備から完成までの時間を同じ範囲で比較してください。

利用料金に加えて、設定、データ整理、研修、運用管理の負担も確認します。試した件数や難易度を記録しておくと、一部の簡単な例だけで導入効果を判断することを避けられます。

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5.AIに任せる範囲と、人が確認する場面を決める

AIエージェントの活用では、回答を作ることと、外部のシステムを操作することを分けて考えます。下書きの作成と、顧客への送信やデータの削除では、誤った場合の影響が異なります。

例えば、問い合わせへの回答案はAIが作成し、送信前に担当者が確認する構成にできます。自動で実行する範囲を広げる場合も、権限、利用上限、記録、停止方法を先に決めておきましょう。

  • 入力:扱ってよい資料や情報の範囲を決める。
  • 権限:利用できるツールと、操作できる対象を限定する。
  • 確認:送信、変更、削除などで、人の承認が必要な場面を決める。
  • 記録:依頼内容、実行した操作、結果を確認できるようにする。
  • 停止:誤動作や費用の増加が起きた際に、止める方法を用意する。

また、AIがコードの問題点を指摘した場合も、指摘件数だけで危険度や修正の完了を判断しないようにします。実際に問題があるか、どの範囲に影響するか、修正後に別の不具合が起きていないかを確認する工程が必要です。

6.長期の構想と、短期の検証を組み合わせる

孫氏は講演で、AIへの投資効果を考える「Return on AI」という捉え方を示し、3年ほどの期間で評価する考えを述べています。これは講演での提案であり、すべての企業に共通する評価期間ではありません。

研修や業務の変更には時間がかかる一方、使われていない仕組みを長期間そのまま維持する必要もありません。長期の目的を持ちつつ、試行段階での品質、利用状況、費用を定期的に確認しましょう。

一つの未来だけを前提にしない

将来の姿から逆算する方法は、必要な準備を考える際に使えます。ただし、AIの導入が速く進む場合だけでなく、費用や品質、設備の制約で想定ほど進まない場合も考えておきましょう。

例えば、共通して必要になる資料の整理や権限管理は先に進め、大きな設備投資は確認できた需要に応じて段階的に判断する、といった分け方があります。予測が変わったときに、計画も修正できるようにしておきます。

個人の学習では、業務知識と確認する力を育てる

AIを使う練習に加えて、出力を判断するための知識も身につけましょう。文章なら事実と解釈の区別、集計なら対象期間や単位、プログラムなら入力と処理の関係を確認します。

「この仕事は将来なくなるか」だけで考えるより、現在の仕事を作業に分け、AIに任せられる部分と、自分が判断する部分を整理してみてください。試した結果から、次に学ぶ内容を決められます。

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7.ASIエコノミーについて、よくある質問

2040年にASIエコノミーが実現することは決まっていますか?

決まっているわけではありません。この記事の数値は、孫正義氏が講演で示した見通しです。実現時期や規模は、技術、需要、費用、インフラなどの条件によって変わり得ます。

今のAIで高い成績が出ていれば、専門家の仕事をすべて任せられますか?

個別の試験や評価で高い成績が出ても、業務全体を任せられるとは限りません。評価した課題、比較対象、採点方法、誤りが起きた場合の影響を確認する必要があります。

実際の導入では、自分の業務で使う入力に近い例を用意し、回答の正しさだけでなく、情報が足りない場合や例外的な条件への対応も確かめましょう。

小規模な組織でも、独自のAI設備を持つ必要がありますか?

業務でAIを使うことと、自社で大規模な計算設備を持つことは別です。既存のサービスやAPIで必要な処理を試し、費用、扱うデータ、運用上の条件を確認する方法もあります。

AIの利用回数が増えれば、導入効果が出たと言えますか?

利用回数だけでは判断できません。仕事の品質、完成までの時間、確認や修正の負担などを合わせて見ます。利用が増えても、やり直しや費用が増えているなら、使い方を見直す必要があります。

8.未来の構想を、確かめられる行動へ変える

ASIエコノミーの構想は、AIが普及した社会で何が必要になるかを考える材料になります。数値を読むときは、発言者、対象年、単位、前提条件を確認し、現在の事実と将来予測を区別しましょう。

現在の取り組みとしては、一つの業務を選び、合格基準を決め、品質・時間・費用を比較することから始められます。その結果を基に、任せる範囲と学ぶ内容を調整し、長期の計画も更新していきましょう。

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