「今年は100人を採用しました」「離職率は5%です」。会社の採用ページや説明会では、採用や退職に関する数字を見かけます。しかし、採用人数が多ければ成長企業、離職率が低ければ働きやすい会社と、そのまま判断してよいのでしょうか。

採用・離職の数字は、人数と割合を合わせて見たうえで、分母・対象者・集計期間・数え方を確認することが大切です。同じ「10%」でも、応募者を基準にした数字なのか、在籍者を基準にした数字なのかで意味が変わります。

この記事では、採用人数・採用率・入職率・離職率の違いを、架空の計算例で解説します。就職・転職で会社を調べる方にも、採用や人材育成に関わる方にも使える、数字の確認方法をまとめました。

目次

1.採用人数・採用率・離職率は、それぞれ何を表す?

採用人数や離職人数は、人の移動を人数で示したものです。一方、採用率や離職率は、その人数を何らかの基準人数で割った割合です。

ここでは「採用者」を採用された人という意味で扱います。ただし、企業の資料では、内定を出した人数、内定を承諾した人数、実際に入社した人数のどれを「採用人数」としているかを確認してください。

指標 読み取る内容 先に確認すること
採用人数 採用活動の結果として数えた人数 内定者・承諾者・入社者のどの段階か
採用率 応募者などに対する採用の割合 分子と分母を何にしているか
入職率 基準となる在籍者数に対する入職者の割合 統計や社内集計の定義、基準日
離職人数 対象期間に離職した人数 対象者と、含める離職理由
離職率 基準となる人数に対する離職者の割合 分母、対象期間、対象集団

指標名だけでは、計算方法まではわかりません。資料に定義が書かれていない場合は、数字を比較する前に確認する必要があります。

2.「採用率」は、応募から入社までのどこを見るかで変わる

企業の採用活動には、応募、選考、内定、内定承諾、入社などの段階があります。「採用率」という一つの数字にまとめる前に、どの段階からどの段階への割合なのかを整理しましょう。

次は、同じ募集に応募した100人の、その後の結果を確認できたとする架空の例です。重複応募は除き、選考中の人はいないものとします。

  • 応募した人:100人
  • 内定を出した人:20人
  • 内定を承諾した人:15人
  • 実際に入社した人:12人
見る割合 計算 結果
応募者に対する内定者の割合 20人 ÷ 100人 × 100 20%
内定者に対する承諾者の割合 15人 ÷ 20人 × 100 75%
応募者に対する入社者の割合 12人 ÷ 100人 × 100 12%

この例では、20%、75%、12%のすべてが正しい計算です。しかし、何を割った数字かを省略すると、選考の状況を誤って伝えてしまいます。

同じ月の応募者と入社者が、同じ人とは限らない

4月に入社した人が、1月に応募していたということもあります。そのため、4月の入社人数を4月の応募人数で割っても、4月に応募した人の入社率にはなりません。

応募から入社までの割合を調べるなら、同じ募集や応募時期の人を追って確認します。まだ選考中の人がいる場合は、集計時点と未確定人数も添えましょう。

採用率の低さは、会社の魅力や選考難度そのものではない

応募者が多い場合だけでなく、採用枠が少ない場合や、応募条件の認識がずれている場合にも、応募者に対する採用の割合は低くなります。数字だけで「人気企業」「優秀な人しか入れない」と結論づけることはできません。

また、全応募者の平均的な割合は、自分個人が採用される確率ではありません。職種、募集枠、経験、選考段階などの条件が異なるためです。

3.離職率は、分母と集計期間を確かめる

厚生労働省の雇用動向調査では、年間の入職率・離職率を、1月1日現在の常用労働者数を基準に算出しています。これは、応募者に対して何人採用したかを示す割合とは異なります。

同調査の常用労働者は正社員だけを意味するものではなく、一定の有期雇用の労働者も含みます。また、入職・離職の定義には出向などの扱いもあるため、会社独自の「正社員の退職率」と比較するときは対象をそろえる必要があります。

計算方法をそろえた架空の例

以下では、説明を簡単にするため、年初の在籍者数を分母とし、その年の入社者と離職者を数える会社を考えます。出向などの複雑な移動はないものとします。

  • 年初の在籍者:100人
  • 年間の入社者:20人
  • 年間の離職者:10人

入社者の割合は20÷100×100=20%、離職率は10÷100×100=10%です。ただし、この10人が年初からいた人なのか、年内に入社して離職した人も含むのかは、別に確認しなければわかりません。

そのため、年間離職率10%だけを見て「年初にいた100人のうち90人が残った」とは断定できません。年初のメンバーの定着を知りたいなら、その100人を追って確認します。

会社独自の分母を使う場合もある

社内管理では、期間中の平均在籍者数などを分母にすることもあります。同じ離職人数でも分母が変われば率が変わるため、計算式を明記して継続的に使いましょう。

単月、半年、1年間の離職率も、そのまま比較できません。採用や退職が集中する時期があるため、半年の率を単純に2倍すれば年間の実績になるわけでもありません。

4.採用人数が多くても、人が増えているとは限らない

採用には、事業拡大のための増員もあれば、退職者の補充もあります。採用人数だけを見ると、会社の人員がどれほど増えたかを読み違えることがあります。

次は、両社とも年初100人で、入社・離職以外に人数の増減がないとする架空の例です。

項目 A社 B社
年初の在籍者 100人 100人
年間の入社者 30人 10人
年間の離職者 28人 2人
年末の在籍者 102人 108人
人数の純増 2人 8人

採用人数はA社のほうが多いものの、人数の純増はB社のほうが大きくなっています。ただし、この表だけで、どちらが働きやすい会社かまでは判断できません。

退職の理由や担当業務、事業の再編なども確かめる必要があります。実際の資料では、会社単体かグループ全体か、集計範囲が途中で変わっていないかにも注意してください。

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5.年間離職率と「新卒3年以内離職率」は別の指標

会社全体の年間離職率は、一定期間の人の移動を見る指標です。一方、新卒の3年以内離職率は、特定の時期に就職した集団について、その後の離職を確認する指標です。

たとえば、ある年に入社した新卒20人のうち、3年以内に6人が離職したなら、その集団の3年以内離職率は30%です。これは架空の例であり、会社全体の年間離職率が30%という意味ではありません。

3年間の率を3で割っても、各年の離職率にはならない

6人全員が1年目に辞めた場合と、毎年2人ずつ辞めた場合では、離職の時期が異なります。3年間の合計の割合だけから、1年目・2年目・3年目の状況を復元することはできません。

また、入社して1年しか経過していない集団と、3年間の観察を終えた集団を比べないようにしましょう。追跡期間が短い集団は、その後の離職がまだ反映されていません。

公的統計の「離職」は、失業を意味しない

厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況は、雇用保険の記録から新規学卒者と推定される就職者を集計しています。離職理由や離職後の就業状態にかかわらず、最初の事業所を離れた人を離職者として数えています。

そのため、離職率を「仕事がなくなった人の割合」や「就職に失敗した人の割合」と読み替えることはできません。転職など、その後の働き方は別の情報です。

6.離職率の高低だけで、会社を評価しない

離職率が高い場合は、採用時の説明と実務のずれ、業務負担、育成体制などを確認するきっかけになります。ただし、数値だけで原因を決めつけることはできません。

定年、契約期間の終了、転職、家庭の事情など、離職にはさまざまな背景があります。理由別の情報があっても、回答した人の範囲や、複数ある理由をどう分類したかを確認しましょう。

比較するなら、対象と条件を近づける

  • 同じ1年間など、期間の長さをそろえる。
  • 正社員のみか、パートなどを含むかを確認する。
  • 会社全体か、特定の部署・職種かを確認する。
  • 新卒・中途や、入社後の経過年数を区別する。
  • 業種や事業所規模が近い集団も参考にする。

全国平均より低いという理由だけで、自分に合う職場だとは限りません。勤務時間、仕事内容、賃金、評価、相談体制なども合わせて確認してください。

少人数の割合には、人数を添える

新卒採用が5人の会社で1人が離職すると、その集団では20%です。人数が少ないほど、一人の動きで割合が大きく変わるため、率だけを並べると変化を過大に受け止めることがあります。

複数年度を見る場合も、追跡期間をそろえ、各年度の人数を確認しましょう。人数が異なる年度の離職率を単純平均するのではなく、目的に応じて離職人数と対象人数を合計して計算します。

7.就職・転職で、数字から質問を作る

企業研究では、数字を会社の良し悪しを決める点数として使うより、追加で確かめることを見つける材料にしましょう。会社全体の数値と、応募する職種の状況が異なる場合もあります。

説明会や面接では、答えられる範囲で次のように尋ねられます。個人の退職事情を求めるのではなく、集計の条件や職場の仕組みに焦点を当ててください。

  • 採用予定人数には、増員と欠員補充がそれぞれどの程度含まれますか。
  • 公表されている離職率は、どの期間・雇用形態を対象にしていますか。
  • 入社後の研修と、配属後に質問できる体制を教えてください。
  • 仕事内容について、入社前後の認識のずれを減らすために行っていることはありますか。
  • 配属先で期待される役割と、最初に担当する業務を教えてください。

情報が公表されていないだけで、問題のある会社と断定することも避けましょう。得られた説明、募集要項、職場での具体的な働き方を合わせて判断します。

8.採用する側は、人数の確保と定着を一緒に見る

採用担当者や管理職にとっては、採用人数を満たした後も、働き始めた人がどこで困っているかを確認することが重要です。応募から入社までの歩留まりと、入社後の状況を分けて記録しましょう。

たとえば、内定辞退が増えている場合と、入社後すぐに離職している場合では、確かめる工程が異なります。前者は条件説明や選考中の対応、後者は業務内容や受け入れ体制などが検討候補になりますが、いずれも仮説として確かめます。

率を下げることだけを目標にしない

離職率を下げたいからといって、退職の意向を言い出しにくくする対応は適切ではありません。業務負担や役割の不明確さなど、改善できる職場の条件を見直しましょう。

相談内容や離職理由の記録は、閲覧できる人を必要な範囲に限定します。少人数の部署別集計など、数字だけでも個人が推測される場合は、共有方法に配慮してください。

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9.採用率・離職率について、よくある質問

離職率は何%以下なら安心ですか?

すべての会社に共通する、安心を保証する数値はありません。対象者、期間、業種、離職理由を確認し、実際の仕事内容や労働条件も合わせて判断しましょう。

離職率が10%から8%になったら、2%改善ですか?

割合の差は「2パーセントポイント低下」です。元の10%に対する相対的な減少率は20%ですが、分母や集計条件が同じかも確認してください。

離職人数を、その年の採用人数で割ってもよいですか?

その計算では、会社全体の離職率や新入社員の離職率にはなりません。新入社員の離職を調べるなら、その採用集団のうち誰が離職したかを、一定の期間で確認する必要があります。

定着率は「100%−離職率」で求められますか?

同じ入社集団を同じ期間追い、全員を在籍・離職に分けて確認できる場合は、その集団の定着率を求められます。一方、期首在籍者数を分母とし、期中入社者の離職も含む年間離職率からは、期首メンバーの定着率を単純に求められません。

10.数字を見るときは「何人中、いつまでに、何人」を確認する

採用人数は人材確保の規模を、採用過程の割合は選考の進み方を、離職率は一定の条件での人の移動を示します。どれか一つだけで、会社の成長性や働きやすさが決まるわけではありません。

次に採用や離職の数字を見たら、「何人中、いつまでに、何人を数えたのか」を確かめてみてください。そのうえで、内訳や実際の働き方へ質問を広げることが、数字を判断に生かす一歩になります。

参考資料

本文の企業別人数や割合は、計算方法を説明するための架空の例です。公的統計を引用・比較する際は、対象年と集計方法を原資料で確認してください。

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