人手不足倒産とは?離職に備える業務体制と、就職・転職時の確認ポイント
「担当者が辞めたら、仕事が回らなくなる」「人の入れ替わりが続く会社で、このまま働いてよいのだろうか」。人手不足は、企業の事業継続にも、働く人のキャリアにも関わる問題です。ただし、退職者が出たという事実だけで、その会社の将来を判断することはできません。
離職への備えでは、働き続けやすい環境を整えることと、担当者が変わっても仕事を引き継げる体制をつくることが重要です。この記事では、人手不足倒産のデータを整理したうえで、企業が見直したい業務体制と、就職・転職時に確認したいポイントを解説します。
目次
1.人手不足倒産とは?統計の対象と期間を確認する
帝国データバンクの調査でいう「人手不足倒産」は、従業員の退職、採用難、人件費の高騰などを要因とする倒産です。集計対象は負債1,000万円以上で、法的整理に至った企業であり、すべての廃業や事業縮小を含む数字ではありません。
また、「2025年」と「2025年度」は集計期間が異なります。全体の件数と内訳を比較するときは、同じ期間の数字を組み合わせる必要があります。
| 集計期間 | 人手不足倒産 | うち従業員退職型 |
|---|---|---|
| 2025年1月〜12月 | 427件 | 124件 |
| 2025年度(2025年4月〜2026年3月) | 441件 | 118件 |
出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」「『従業員退職型』の倒産動向(2025年)」「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」。従業員退職型は人手不足倒産の内訳なので、両者を足し合わせるものではありません。
退職が関わる倒産でも、原因は一つとは限らない
「従業員退職型」は、従業員や経営幹部などの退職が、直接的または間接的な要因となった倒産を指します。退職だけでなく、受注の減少、外注費の増加、資金繰りの悪化などが重なっている場合もあります。
この統計から読み取れるのは、人材の確保や業務の継続が経営上の課題になっているということです。個別企業が倒産する確率や、退職した人の責任を示す数字ではありません。
2.離職の影響が大きくなる業務体制とは
同じ1人の退職でも、担当業務や代替できる人の有無によって影響は変わります。まず確認したいのは、人数だけでなく、誰が何を担い、その人が不在になると何が止まるのかという業務の実態です。
例えば、請求処理の手順を1人しか知らない場合、担当者の退職や休職によって請求が遅れる可能性があります。手順書があっても、必要な権限や判断基準が引き継がれていなければ、別の人がすぐに対応できるとは限りません。
| 確認する項目 | 業務が止まりやすい状態 | 見直すポイント |
|---|---|---|
| 作業手順 | 担当者の記憶に頼り、処理方法が残っていない | 基本手順と例外対応を記録し、別の人が試す |
| 資格・専門知識 | 必要な資格や判断能力を持つ人が限られている | 育成期間を見込み、配置や採用の計画を立てる |
| 顧客・取引先との関係 | 過去の経緯や約束を担当者しか把握していない | 対応履歴と次の対応予定を共有する |
| システムの管理 | 管理権限や設定変更の方法が個人に集中している | 組織として管理し、権限付与・変更の手順を整える |
| 仕事の余力 | 全員が常に手いっぱいで、代替対応ができない | 優先順位、受注量、業務範囲を見直す |
専門性が高い仕事まで、全員が同じ水準で担当する必要はありません。重要なのは、代替できる範囲とできない範囲を把握し、応援、外部への依頼、納期調整などの対応方法を用意しておくことです。
3.企業が進めたい、離職に備える4つの改善
ステップ1:止められない仕事を特定する
最初からすべての業務を文書化しようとすると、日常業務を圧迫しやすくなります。まずは、停止したときに顧客対応、売上、支払い、安全などへ大きな影響が出る仕事から確認しましょう。
各業務について「担当者」「代替できる人」「次の期限」「必要な資格や権限」「困ったときの相談先」を整理します。担当者が数日不在になる場面を想定すると、引き継ぎに必要な情報を見つけやすくなります。
ステップ2:引き継ぎ資料を、実際に使える状態にする
引き継ぎ資料には、操作の順番だけでなく、完成した状態の見本や、判断に迷う場面の対応方法も記載します。「手順どおりに進めたのに結果が違う」というとき、どこを確認すればよいかまで残しておくと役立ちます。
資料を作った後は、別の担当者が実際に作業して、不足している説明を補います。共有するのは個人のパスワードではなく、必要な人に適切な権限を付与する手順です。
- 作業を始めるために必要な資料や権限が分かるか。
- 通常の処理と、例外が発生した場合の対応を区別できるか。
- 作業結果を確認する方法が書かれているか。
- 資料の更新担当者と、見直すタイミングが決まっているか。
ステップ3:働き続けにくい理由を、具体的に改善する
人材の定着を考えるときは、給与、業務量、勤務時間、評価の分かりやすさ、成長機会などを確認します。面談の回数を増やしても、そこで共有された負担や不公平感が放置されれば、改善にはつながりません。
例えば「仕事が多い」という相談には、担当業務と期限を一緒に確認し、減らす仕事、延期する仕事、分担する仕事を決めます。その場で対応できないことは、理由と再検討する時期を伝えましょう。
面談では、本人が話したい業務上の困りごとや希望を確認します。私生活の開示を求めたり、退職の意思を探ることばかりに終始したりせず、相談が具体的な支援につながる運用を目指します。
ステップ4:少人数でも続けられる仕事の進め方に変える
人が足りないときには、採用と並行して仕事そのものの見直しも必要です。使われていない資料、重複入力、目的が曖昧な会議などを確認し、廃止・簡略化・分担変更の順に検討します。
改善の効果は、作業時間だけで判断しないことが大切です。時間が短くなっても、修正や問い合わせが増えている場合は、業務全体の負担が減っていない可能性があります。
業務改善では、時間の短縮と成果の質を合わせて確認することが大切です。職場で生産性を見直す手順と、数値の読み方を解説しています。
労働生産性とは?日本の国際比較と職場で進める改善の5ステップ 記事を読む →4.AIや自動化を導入するときも、引き継ぎを考える
定型的な転記や集計などは、自動化によって作業負担を減らせる場合があります。ただし、導入しただけで人手不足や属人化が解消するわけではありません。
自動化の設定を1人しか理解していなければ、担当者が変わったときに修正できなくなる可能性があります。AIを使う処理では、出力内容の確認や、誤った結果が出たときの対応も必要です。
- 対象を絞る:手順や判断基準を説明できる業務から検討する。
- 管理方法を残す:設定、権限、費用、外部サービスとの接続先を把握する。
- 確認担当者を決める:出力や処理結果を、誰がどの基準で確認するかを定める。
- 停止時に備える:手作業へ戻す方法や、処理を保留する条件を用意する。
導入前後で、処理時間、修正件数、運用費用、担当者の負担を比較しましょう。自動化しないほうが扱いやすい業務もあるため、継続して運用できるかを含めて判断します。
AIやAPI連携で業務を自動化する場合は、処理の流れと確認・停止の仕組みを合わせて設計します。具体的な考え方はこちらで整理しています。
AIとAPI連携で業務を自動化する方法|ワークフロー設計と安全な運用の基本 記事を読む →5.就職・転職時は、離職率と働く環境をどう確認するか
働く側にとっては、入社後の役割や支援体制を具体的に知ることが重要です。求人が多いことや、人手不足という社会全体の傾向だけで、自分に合う仕事が見つかるとは限りません。
企業研究では、公開情報に加えて、求人票、面接での説明、職場見学などから情報を集めます。社員の年齢構成や、離職率が公表されていないことだけで、会社の良し悪しを決めないようにしましょう。
| 確認したいこと | 質問の例 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 採用の背景 | 今回の募集は、増員と欠員補充のどちらでしょうか。 | 採用後の役割と、現在の体制が説明されているか |
| 入社後の育成 | 最初の数か月は、誰からどのように仕事を教わりますか。 | 教育担当者、学ぶ内容、相談先が具体的か |
| 仕事の分担 | 担当者が不在のときは、どのように対応していますか。 | 1人に業務や責任が集中していないか |
| 業務量 | 繁忙期はいつで、仕事が集中した場合はどう調整しますか。 | 負担が増える理由と、調整方法が説明されているか |
| 評価・成長 | この職種では、どのような成果や行動を評価しますか。 | 求められる役割と評価基準を理解できるか |
離職率は、対象者と期間をそろえて読む
「離職率」という名称でも、全社員を対象にした年間の数値と、新卒入社者を対象にした一定期間内の数値では意味が異なります。比較するときは、対象者、集計期間、計算方法を確認してください。
数値が低いことだけで働きやすさが証明されるわけではなく、高いことだけですべての事情を説明できるわけでもありません。可能な範囲で職種や部署の状況を聞き、自分が働く環境と結び付けて考えます。
離職の背景を考えるときは、世代のイメージと統計で確認できることを分ける必要があります。離職率の読み方とキャリアの考え方を解説しています。
若者はなぜ仕事を辞める?離職率の読み方と世代で決めつけないキャリアの考え方 記事を読む →6.働く個人が準備したい、経験の整理と学び直し
会社の状況が気になるときは、今の職場で改善できることと、自分の今後の選択肢を整理してみましょう。転職だけでなく、担当業務の調整、異動、学習機会の活用なども検討対象になります。
自分の経験を振り返る際は、「どの会社にいたか」だけでなく、どのような課題に対して何をしたのかを記録します。社内固有の業務でも、手順の整理、顧客との調整、品質確認など、別の仕事にもつながる経験が含まれていることがあります。
- 課題:どのような状況で、何が問題になっていたか。
- 自分の役割:どこまでを担当し、誰と協力したか。
- 行動:どのように調べ、判断し、作業を進めたか。
- 結果:確認できた変化と、残った課題は何か。
- 次の学習:希望する仕事に向けて、何を補う必要があるか。
結果を数値で表す場合は、確認できる範囲で記載し、分からない成果を推測で補わないようにします。社外向けの説明には機密情報や個人情報を含めず、会社の資料を無断で持ち出さないことも大切です。
学び直す内容は、希望する仕事と現在の課題から選びます。AIやプログラミングが役立つ仕事もありますが、業務知識、文章で伝える力、顧客対応、専門資格などが優先される場合もあります。
7.よくある質問
退職者が続いたら、すぐに転職したほうがよいですか?
退職者の人数だけでは判断できません。自分の業務負担、育成や補充の状況、会社からの説明、改善の進み具合を確認し、働き続ける条件を整理しましょう。
情報収集や経験の棚卸しは、転職を決める前から進められます。今の職場でできる調整と、外部の選択肢を並行して確認する方法もあります。
離職率が低い会社なら、安心して働けますか?
離職率だけで、働きやすさや事業の安定性は判断できません。集計対象と期間を確認したうえで、仕事内容、待遇、業務量、相談体制などを合わせて比較してください。
少人数の会社では、属人化をなくすことは難しいですか?
すべての仕事を複数人で担当するのが難しい場合でも、重要業務の手順や連絡先を残すことはできます。担当者が不在のときに、誰がどこまで対応し、どこから支援を求めるかを決めることから始めましょう。
AIを導入すれば、人手不足の対策になりますか?
対象業務によっては、作業負担の軽減につながります。ただし、出力の確認、設定の保守、費用管理などが必要になるため、導入後の運用を含めて負担が減るかを確かめることが大切です。
8.まとめ:業務の引き継ぎと働く環境を一緒に見直す
人手不足や離職への備えでは、人材の確保、業務の分担、待遇、育成、資金面などを合わせて考える必要があります。退職を完全になくすことはできないため、人が入れ替わっても続けられる業務体制を整えましょう。
企業側は、まず止められない仕事を一つ選び、代替担当者と必要な情報を確認してみてください。働く側は、現在の負担や希望する働き方を整理し、会社に確認したいことと、自分が準備できることを分けて書き出してみましょう。
参考資料
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」(2026年1月8日公表)
- 帝国データバンク「『従業員退職型』の倒産動向(2025年)」(2026年2月7日公表)
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」(2026年4月9日公表)
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